トレーディングカードを作るメーカーは、たびたび「造幣局」にたとえらることがある。紙にイラストを印刷するだけで市場で価値を持つようになるのは、確かに紙幣の特徴だ。カードがお金としての側面を持ち、市場原理によって価格が変動するのであれば、確かにトレーディングカードは投資商品たりえるという意見も捨て置けるものではない。現に、ポケモンカードのトレードを専門にするポケカ投資家は、レアカードを「安く買って高く売る」ことで利ざやを稼いでいる。
さらに、そのようなポケカ投資家をサポートする“投資ツール”を提供するWebサイトもある。そのサイトはポケモンカードの種類ごとの価格変動を日時でグラフ形式に記しており、その見た目はさながら株価チャートを彷彿(ほうふつ)とさせる。
しかし、長期的な観点で、トレーディングカードを投資商品とみなすのは難しい。それは、次のような不確定事項があるからだ。
最大の要因は、ポケモンカードが値上がりしても、その値上がり益はポケモンカードのメーカーに還元されない点だ。通常、会社の株式などであれば、株価が上昇すれば自社の時価総額も上昇し、自社株の評価額も上がる。しかし、トレーディングカード売買はセカンダリ市場、つまりメーカーの介在しない中古のマーケットで行われるため、メーカーは利益を得られない。
さらに、レアカードが中古市場で買えるとすれば、ランダム性の高いブースターパックよりも他の人から買った方がトータルの支出を抑えて目当てのカードを購入できる可能性が高い。したがって、ポケモンカードの値上がりはメーカーにとってプラスとなるどころか、パックの売り上げを落としかねないマイナス要因となる。
そして、ポケモンカードは他の金融商品と異なり、供給量に制限がないことも投資商品とみなすことを難しくさせる。会社の株式には発行可能上限株数という概念があり、その会社が発行できる株数に上限がある。私たちが持っている日本円やドルといった通貨も、中央銀行の金融政策によって発行数量がコントロールされており、無制限に発行することはできない。
一方でカードは、需要があればそれを飲み込むだけの供給が十分に可能という性質がある。もし伝統工芸品やロボットなどのように生産にかかるコストや期間が長ければ、需要の増加に供給が追いつけなくなる可能性が高いが、とりわけトレーディングカードの量産にはそれほどの手間や時間はかからない。したがって、爆発的な需要上昇で一時的に価格がゆがむことはあれど、中長期的に値上がり傾向を維持するのは難しいということになる。メーカーとしても、流通が滞れば中古市場での売買が活発になるため、供給量をあえて制限する理由もないわけだ。
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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