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「菅首相辞任」から考える、「トップに向かない番頭」はどんな人かスピン経済の歩き方(5/6 ページ)

» 2021年09月07日 09時52分 公開
[窪田順生ITmedia]

菅首相はこのパターン

 さて、そこで想像していただきたい。こういう「裏仕事師」的な番頭がトップになって、周囲の人間はそれをすんなりと受け入れることができるだろうか。やはり以前の汚れ役のイメージを引きずってしまわないか。キャラ変して、親しみやすさなどをアピールしてもどうしても付け焼き刃的にならないか。

 それはつまり、もし何かミスをすれば、味方もおらずボロカスに叩かれるし、これまで力でねじ伏せていた人々からの反撃にも合うということだ。皆さんの会社にもこのような人はいるはずだ。ナンバー2だったときは、トップの代わりにさまざまな汚れ仕事に手を染めて、影の実力者として社内でも一目置かれていたが、いざ自分がトップになると、急にそれまでの勢いがなくなって、社内のいろいろな反対勢力から叩かれ、中間管理職のようになってしまう方が。

 まさしく菅首相はこのパターンだったのだ。

 安倍前首相は岸信介を母方の祖父に持ち、父方も三代続く国会議員一家というナチュラルボーン上級国民。いわば、「安倍商店」という大店の跡取りだ。一方、菅氏は秋田から集団就職で上京して、働きながら大学の夜間を卒業して政治家になった苦労人という触れ込みだ。キャラ的には、丁稚奉公から着々と実績を積み上げた大番頭といえなくもない。

 だから、国民はしっくりきた。いろいろと問題のある政権ではあったが、このトップとナンバー2の絶妙のバランスが、まるで朝ドラに出てくるような主人と番頭のようで、安心感があったのではないか。

 実は組織にはこのような「どう見えるか」という点も非常に大事だ。

 今はボロカスに叩かれているが、菅首相にも多くの功績がある。デジタル庁もつくったし、50年以上続いた中小企業政策も大きく変えた。アベノミクスの唯一の実績ともいえるインバウンド拡大は、菅氏が官房長官時代に強力に推し進めなければなし得なかった。

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