リーマン以来の脅威? 中国恒大とは何者か古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)

» 2021年09月17日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

中国恒大とは何者か

 中国恒大集団は中国広東省深センに本社のある不動産デベロッパー企業だ。1996年の設立からわずか25年あまりで、一時は日本円にしておよそ5兆円の時価総額を誇った。日本の不動産デベロッパーで5兆円の時価総額といえば、ちょうど三菱地所と三井不動産を合体させたくらいの規模感である。

中国恒大集団のWebページ

 同社は借入金などで経営にレバレッジを効かせ、急速な土地の取得やM&Aを推進した。2000年〜10年代にかけて、中国の都市部における不動産価格の高騰をうまく捉え、16年には不動産販売額で中国内トップとなり、当時の総資産は日本円にして22.94兆円にまで達した。中国恒大の許家印会長の個人資産もこの時5兆円近くまで膨れ上がり、中国内でも指折りの富豪として名をとどろかせた。

 そんな中国恒大の風向きが変わり出したのが18年だ。不動産市況の成長率鈍化と、中国恒大集団の規模が拡大することによる成長率鈍化という課題に差し掛かった同社は、事業の多角化を一層推進した。中国恒大はミネラルウォーターやサッカースクール、老人ホームにも手を出していたが、18年には電気自動車(EV)事業にも進出。21年には米フォードを時価総額で上回り、一時は9兆円の時価総額にまで達したものの、8月にその時価総額のほとんどが吹き飛んだことで話題になったことは記憶に新しいだろう。

 そんな中国恒大の負債額は、20年12月時点で33.14兆円、負債比率は1327.9%と、倍率だけで見れば“FX並み”のレバレッジとなっている。

 同社がここまで負債を拡大できた背景には、自社の株式や不動産を担保にした借入を行えたことがある。仮に不動産価格が上昇しそうだという観測が流れ投機によって本質的な価値を超えて値上がりすると、バランスシート上の資産額も増加する。さらに、不動産価格の高まりによって収益力も増大することから、会社の業績、ひいては時価総額も増加する。そのようなプラスの連鎖反応が同社の積極借入姿勢を後押しした。

 ここに来て同社の債務がデフォルト(不履行)しそうであるという観測が流れているのは、上記の連鎖反応が逆方向に回り始めたからだ。中国では、ここ数カ月不動産市況のバブル抑制に動いており、当局が“参考価格”を提示することで中古マンションの実質的な価格統制を行うなど、不動産をめぐる投機規制の動きが著しい。

 現在では資金繰り悪化を解消するため、同社の保有資産や物件を換金する動きがあるものの、ただでさえ目減りしている評価額に相当規模の売却が入ることで値崩れの懸念もある。解消までの道のりは前途多難だ。仮に破たんするようなことがあれば、さまざまな金融商品が連鎖して危機を引き起こした金融不安の再来が連想されてくる。

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