かつて日本経済を牽引(けんいん)したのは、「技術力の高さ」だったことを否定する人はいないはずです。
しかしながら、バブル崩壊以降、日本企業は「人」より「数字」ばかりを見て、知恵よりも知識を優先してきました。かつて日本経済を支えた「続ける力」「繰り返す力」を評価しなくなったことで、企業の屋台骨だった「技術力」は劣化しました。
私は講演会などで会社を訪問するたびに、工場などの現場を見せていただくのですが、あるとき案内してくれた営業部の男性が、「うちの会社の技術は工場で生まれました」と話してくれたことがあります。
「世界に誇る技術が生まれたのも、さまざまな機能をオートメーション化できたのも、長年工場で働く人たちがいたからです。ところが、時代が変わり、目に見えない力や、数字に反映されない労働力は評価されなくなりました。海外の工場で安いコストで生産し、かつては工場で生まれていた新しい技術は、理系の高度な専門知識を持った人たちを集めた『開発室』が担当し、マーケットリサーチで新製品を考えるようになりました。
もちろんそういったやり方の全てを否定するわけじゃありません。でも、日本には日本のやり方がある。日本人ならでは、真面目さを生かさないと世界には勝てないと思います」
続けて、男性はこのように嘆きました。
「私は入社以来ずっと営業畑を歩んできましたが、若い頃に生産ラインに何度も足を運び、こだわり続ける職人の熱さや、実直なまでにものづくりに取り組む彼らの姿勢から、たくさんのことを学びました。昔は、生産ラインの工場長も部長職と同じレベルの賃金をもらってたんです。なのに今では、管理職にならないと賃金は上がらなくなった。本当にこれでいいのかな、という気持ちがぬぐえません」
私自身、以前、世界にワザを誇る日本の中小企業を取材して回ったことがあります。世界で認められている“日本のワザ”は、いずれも小さな町工場で生まれていました。何十年にもわたって作業着に身を包み、毎日同じ作業を繰り返す中で生まれていたのです。
ときには繰り返しの中で見つけた発見が“ワザ”につながることもあったし、ときには「こんなものが作りたい」と、毎日試行錯誤して、何十年もかかって生まれた“ワザ”もあった。
新しいことは、何年も何年も同じことをやるうちに生まれるもの。
同じことを繰り返すからこそ「もっといい方法があるのではないか?」「こんな面白いことができるんじゃないか?」と新しい発想が生まれます。
続ける力と繰り返す力が、新しい発見や会社を支える力となるのは、何も生産ラインの人たちだけに限ったことではありません。
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