会社は、従業員に対して、就業時間外の飲み会を禁止するような指示ができるでしょうか。
まず原則として、会社は従業員の私生活には介入できません。しかし、一般に、会社秩序を維持するため、会社は必要かつ合理的な範囲で、従業員に必要な規制や指示、命令などを行うことが許されると考えられています。
業務時間外に行われる飲み会は、就業時間外の行為であり、本来は従業員の自由に委ねられます。しかし、従業員が新型コロナウイルスに感染すると、当該の従業員に従来通りの勤務を命じることができなくなるばかりか、その状態で当該の従業員がオフィスに出社した場合には社内に感染が拡大してしまう可能性が高く、会社秩序が大きく乱されます。
さらに緊急事態宣言や都道府県知事からの外出自粛要請などがある場合、会社が感染拡大防止のために従業員の飲み会を「禁止」することは難しくとも、「自粛要請」を行い、従業員の私生活上の活動を一定程度制限することは、制限の内容として必要性・合理性があり、可能かと考えます。
ただし、「OB・OG訪問で女子学生に「2人きりになろう」 勤務時間外でも“就活セクハラ”として処分すべき?」でもご説明したように、懲戒処分は、会社秩序を維持するために行うものなので、基本的に業務に関連しない就業時間外の行為に対して行うことはできません。
従って、従業員に対して飲み会を自粛するよう要請はできますが、これに違反したからといって懲戒処分をすることは難しいでしょう。
SNSで飲み会の様子を投稿することも、基本的には私生活の一部であり、従業員の自由です。従って、業務時間外に飲み会を開催・参加することと同様に、一定程度制限をすることは可能ですが、仮に違反した場合であっても懲戒処分に付するのは困難です。
ただし、処分の対象となる行為が会社の事業に直接関連する場合や、会社の社会的評価を低下させる場合は、業務時間外の行為であっても懲戒処分が可能と考えられています(第2回記事参照)。
実名SNSで飲み会の様子を投稿すれば、それを見たSNSユーザーにより勤務先が特定されて会社が批判されたり、取引先から会社にクレームが入ったりする可能性があります。その点では、懲戒処分の余地が全くないわけではないと思います。
しかし、このような場合でも、直ちに会社の名誉・信用などに対して重大な損害があるとは考えにくく、事情により懲戒処分が可能だとしても、懲戒解雇のような重い処分を行うのは難しいケースがほとんどでしょう。
ここまで、以下の点について説明しました。
(1)マスクの着用は業務命令で指示することができ、これに違反すれば懲戒処分の対象にもなる可能性がある
(2)飲み会の開催・参加、SNSへの投稿をしないよう要請することはできるが、違反した場合に懲戒処分を行うことは難しい
会社の呼び掛けに応じず、新型コロナウイルス対策に協力しない従業員への対応としては、厳しい処分を行うことを前提として考えるのではなく、感染拡大の重大さなどを丁寧に説明し、納得してもらうことが重要です。
別室での作業などの対応も考えるほか、注意など本人への働きかけをした上で、従業員の行動があまりにひどく周囲の従業員に多大な影響を与えるなどの場合には、懲戒処分を検討するというステップを踏むのが適切です。
なお、今回のテーマとは少し離れますが、従業員の実名SNSについては、インターネットでの炎上などのトラブルにつながりやすいため、会社がSNS利用のガイドラインを作成したり、研修を行ったりすることも有効です。
2013年東北大学文学部卒業。同年、裁判所入所。スタートアップ企業の人事・総務部などを経て、2019年9月法律事務所ZeLoに参画。人事・労務分野のリサーチなどを中心に業務を行っており、日常的な労務相談やIPO支援、人事・労務に関する記事執筆などのサポートに取り組んでいる。
2017年3月に設立された、企業法務専門の法律事務所。「From Zero to Legal Innovation」を掲げ、スタートアップから中小・上場企業まで、企業法務の幅広い領域でリーガルサービスを提供している。AIによる契約書レビュー支援ソフトウェアなどを開発する株式会社LegalForceと共に創業されており、リーガルテックやITツールを積極的に業務に取り入れ、企業の経営と事業の成長をサポートする。2020年に設立したZeLo FAS株式会社と連携し、M&Aやファイナンスなどにも強みを有する。
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