なぜ、住宅メーカーの“動く”ログハウスに注文が殺到するのか 盛り上がるキャンピングカー市場最前線提供する価値とは(3/4 ページ)

» 2021年10月26日 05時00分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]

移動・移住によって遊びや暮らしの多様化が進む

 コロナ禍によりリモートワークが増え、他の人と接触せずに移動できる自分たちだけの空間を持ちたいと考える人が増加しています。これを「プライベート空間市場」と名付けます。この市場は、次のようなポジショニングマップで表せます。

プライベート空間市場におけるIMAGOの位置付け

 プライベート空間市場にはさまざまなものが混在しています。

 「自分だけの時間・空間を楽しむことができる固定あるいは移動式の空間」と定義すると、その市場には大きく分けて、住宅と車の2種類が存在します。

 住宅では一般住宅を基本に、中古や空き家のリノベーション、別荘や二拠点居住などの移住用の住宅があります。また、増築による空間もプライベート空間と呼べるでしょう。

 しかし、いずれも高額であるというのが特徴です。中にはサブスク型の多居住サービスを提供する「ADDres」や「airbnb」があります。これらの宿泊サービスを活用するアドレスホッパー(定住先を持たずに場所を転々とする人)も出現していますが、そうしたノマド生活ができるだけの安定した資産や仕事を持っている人はまだ少ないのが実態です。

 安価なものではプレハブ小屋やコンテナハウスなどもありますので、デザインにこだわらなければ、プライベート空間を確保することはそれほど難しくありません。

 一方、移動するための手段である車には、さまざまな企業が参入し始めています。

 正確には、自走できるキャンピングカーと、けん引車があれば移動できるトレーラーハウスです。今、特に注目されているのがトレーラーハウスです。けん引するクルマの後ろに、プライベートな空間をもった部屋がくっついていることになります。スノーピークや無印良品などもこの市場に商品を投入していますが、最近、まったく新しい商品がこの市場に登場しました。

 それが、走るログ小屋「IMAGO」です。れっきとしたログでできた小屋ですが、なんと、車輪がついている可動式ログ小屋なのです。

 日本でもっとも多くのログハウスを販売してきている住宅メーカーのアールシーコア(東京都目黒区)が企画開発した「車」です。9月末にプレス発表して以降、各メディアから取材が相次ぎ、10月16日の発売前から予約が相次ぐヒット商品となっています。

 

IMAGOのラインアップ

 実は、同社では走るIMAGOの原型となる商品を16年から販売してきました(現在も販売中)。累計550台以上販売されてきた固定式のログ小屋ですが、21年4〜8月は売り上げが前年比221%です。このような動きが20年から見られたため、同社では「アウトドア好きな当社のユーザーが、この小屋を外に連れ出せるようにしたら、予想外の暮らし方や楽しみ方が生まれ、面白がってくれるのではないか」(同社・永井聖悟専務)と考え、車輪付きの可動式ログハウスを開発したのです。市場があるから作ったわけではなく、新しく市場を作るという発想で生まれた商品である点が最大の特徴です。

 IMAGOは2種類あり、両タイプ共に重量が2000キロを超えるため、動かすためにはけん引車とけん引第一種免許が必要です。また、車であるため、車検費用やナンバープレートの交付、自動車税の納付なども必要になります。一方、建物ではないので、建築確認申請が不要です。基本的に、自由に移動したり、設置したりすることができるようにしています。海沿いに移動してそこで釣りを楽しんだり、野原の真ん中でターフを張って家族でBBQを楽しむなど、さまざまな用途が想定されます。

 また、20フィートタイプの「IMAGO X」は企業からの問い合わせが殺到しています。広さが11平米ほどある室内を利用して、POP UP店舗やショールーム、移動販売店舗として活用したいと考える企業が多いようです。好きな時に好きな場所で商売できる移動販売は20〜21年にかけて増加しました。この流れは今後も続くと思われます。そのような中、デザイン性に優れて、自然派の同商品は法人利用も一気に増えていくでしょう。

 同社では22年度に年間1000台の販売を予定しています。デザイン性が高く、リーズナブルな同商品はこれからさまざまな場所で見かけるようになるかもしれません。

 固定された自分だけの空間を持っている人は多くいます。また、自家用車のように自分だけの移動手段を持っている人もいます。しかし、「移動可能なプライベート空間」を持っている人はまだ多くはありません。日本のキャンピングカー保有台数は12万台なので、日本人のおよそ1000人に1人しか持っていないということを意味します。これにトレーラーハウスを加えても状況は大きく変わらないでしょう。しかし、移動できるプライベート空間の価値を知ったら、保有したい人はさらに増えるのではないかと思います。キャンピングカーなどは、災害時にシェルターとしての役割も果たします。最近、この機能が見直されています。単に移動するだけの車はこれからは淘汰されていくのです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.