とはいえ、もちろんユーザーは無審査で「後払い」を利用できるわけではない。使い勝手がよく誰でも簡単に利用し得る決済手段だからこそ、「後払い」事業者においては回収できないリスクや反社に利用されるリスクを常に考慮する必要がある。そこで各社独自の不正検知や与信モデルを構築しながらユーザーの与信審査を行っている。
与信審査では過去の購入・支払い履歴や、ECサイト内での行動履歴などの分析が重要となる。「後払い」事業者各社ともに、保有しているユーザーデータのうちの動的な情報、すなわち支払いや取引の履歴、購入商品の内容や金額などリアルタイム性の高い情報を分析・解析して「『当該決済において』『今きちんと支払う意志があり』『実際に翌月支払える蓋然性が高いかどうか』」を判断している。
ただし、自社でこのような与信審査をするとはいっても、言うほど易くはないことに注意が必要だ。自社で意味のある与信モデルを構築する際には、延べで数千万件レベルの圧倒的なユーザー(トランザクション)情報が必要であり、かつ、頻度・時間として圧倒的に利用されているサービスであることが理想だ。確実なデータ基盤があり、そこから得られる膨大な動的なデータをUXに還元してPDCAを回し続けられるサービスでなければ、精度の高い独自の与信審査など困難で、いわば絵に描いた餅になってしまう可能性が高い。
加えて、そもそも事前の与信では判定不可能なユーザー群が存在することにも注意が必要だ。例えば、与信時点では問題ないと判定できるユーザーが返済を失念する、あるいは突如病気や怪我で倒れてしまうなど、テクノロジーを駆使しても予測しようがない部分も大きい。それらを織り込んだ上で「後払い」のサービス設計を行うことも肝要だ。つまり、与信では判断できないレイヤーが一定程度存在することを前提に、的確な督促・回収モデルも並行して検討していく必要がある。
さもないと、特にユーザーの住所情報を取得しないタイプの後払いの貸倒れ率は、簡単に50%を超えることになる。
後編では、国内における各「後払い」サービスの特徴を、その歴史をたどりながら確認する。
音楽業界、三越伊勢丹グループ、KDDIグループなどを経て2017年にGardiaを創業。同社を2年でM&Aによる伊藤忠商事グループ入りへ導いた後、20年末に経営から退き、新たに「督促回収テック」を展開するLectoを創業して代表取締役社長に就任。
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