リテール大革命

空港・カジノ・イベント会場──米アマゾン技術で“無人店舗”が急増中 一方、進出しづらい業界も石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(4/4 ページ)

» 2021年11月02日 07時00分 公開
[石角友愛ITmedia]
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無人店舗が向いていない店とは?

 ここまで、アマゾンの「Just Walk Out」事業により、さまざまな業態の店舗に無人決済システムが導入されたことを紹介しました。では反対に、無人決済・無人店舗が向いていない店とは、どのような店でしょうか。

無人店舗の進出が難しい業界は?(提供:ゲッティイメージズ)

 例えば、高級ブティックのようにハイタッチな接客を要するお店などが挙げられます。なぜなら、商品単価の高い高級ブティックでは、顧客が購入に至るまでの意思決定プロセスが複雑で多様化しているため、接客にはストアアソシエイト(SA)のような専門スキルが求められる場合が多いからです。

 購入の際に顧客情報を聞き出し、会員登録をしてもらうことでエンゲージメントを高める基盤を作る必要があるため、SAを通して購入をするという体験自体が大きな意味を持つのです。また、商品の単価が高いため、万が一、センサーやカメラなどが請求漏れを見逃した場合、大きな損失になります。

 現状では、アパレル店舗も無人化には適さないのではないか、と考えられます。コンビニなどは、センサーが設置しやすくデータが取りやすいため、商品棚の設計という観点からも無人化に適しているのですが、アパレル系の店舗の場合、商品棚に陳列されていない商品も多く存在します。

 そのため、例えばハンガーなどにかかっている商品の場合、カメラやセンサーで正しく購入が認識できるか、という技術的課題が生じる可能性もあるでしょう。また、オーダーを受けて商品を作るという複雑な工程が発生するレストランやファストフードチェーン店舗では、購入のためのタッチパネルなどは導入できても、オーダー情報を厨房に転送し、調理する工程が必要となるため、無人化に関しては、より複雑な問題を抱えているといえるでしょう。

 また、人の混雑が大幅に解消しなければ顧客体験はさほど向上しないとも考えられるため、コンビニなどよりも無人化によるメリットを感じにくいのではないでしょうか。

 以上、米国での無人店舗の導入事例と無人化に向かない店舗について考察をしましたが、今後、日米で店舗の無人化がどのように浸透してゆくか、また浸透に伴いどのような問題点が見えてくるのかなど、引き続き注目していきたいと思います。

著者プロフィール:石角友愛(いしずみ・ともえ) 

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パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。また、毎日新聞「石角友愛のシリコンバレー通信」、ITmedia ビジネスオンライン「石角友愛とめぐる、米国リテール最前線」など大手メディアでの寄稿連載を多く持ち、最新のIT業界に関する情報を発信している。

著書に『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
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