ビジネスホテルの“無料朝食”、気になる原価は一体いくら? 激化する“朝食合戦”から見るホテルの今瀧澤信秋「ホテルの深層」(4/4 ページ)

» 2021年11月04日 06時00分 公開
[瀧澤信秋ITmedia]
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ビジネスホテルの無料朝食の原価は?

 よくこうしたテーマに際して「原価率」という指標が用いられる。売り上げに対しての原価(食材費)ということになり、原価率30%が一般的な指標だとよく言われる。一方、ホテル朝食ブッフェにおいては、基本的に宿泊プランとして合わせ技で販売されていることから、原価率ではなくゲスト1人あたりの原価へブレークダウンして算出する必要がある。

 例えば、定価では1500円で販売しているものの、朝食付き宿泊プランの料金8000円のうち、1人あたりの朝食の原価は実際どのくらいを占めるのか? といった具合だ。ホテルが設定する客室単価とも関わってくる部分である。

ホテル朝食 (画像提供:ゲッティイメージズ)

 以前、本連載で「ホテル1室のアメニティー、清掃費用は一体いくら?  ホテルの気になる“原価”あれこれ」というタイトル(厳密には原価ではないが)で、ホテル1室のアメニティー費用といったコストを取材し執筆した。ホテル利用者にとって興味深いテーマということで反響をいただいた。

 朝食についてはホテルごとにかなり差異があり、事実、ホテルも注力する部分にしてその原価はアメニティーよりも興味深い部分かもしれない。もちろんアメニティー同様、ホテルとしては一般には開示したくない情報であるが故、取材は難航した。一方で複数の会社から回答を得ることができた。今回は前編・後編に分けて、ホテルの朝食原価を深掘りしたいと思う。

ビジネスホテルの無料朝食の原価

 さて、ローコストタイプのビジネスホテルでよくある無料朝食からみていこう。

 関係者によると、無料朝食の原価は300円〜だという。これも朝食の内容同様にホテルによりけりで、かなりシンプルな朝食ホテルではさらに安価な設定もあれば、無料とはいえ内容を充実させているケースなどバラエティーに富み、「300円〜」という金額は一つの指標的数字といえよう。

 他方、ハイクラスタイプのホテルで、定価1000〜2000円で提供している有料朝食の場合の原価は、600〜800円辺りが多くみられた。少し充実させたホテルだと900円というところもあった。

 前述した一般的な原価率指標である30%と単純に比べてみると、かなり高いことが分かる。「朝食でもうけようとしてはいけない、泊まっていだたくためのアイテムなのだ」というホテルのスタンスが見えてくるようだ。

 そんなホテルの朝食原価あれこれであるが、エリアによって特色があるケースも。“ホテル朝食戦争”などという表現でセンセーショナルに報じられているのが、北海道のホテル。特徴的なのが、コストのかかる「海鮮食材」を出している点。ビジネスホテルから高級リゾートホテルまで、豪華な“海鮮勝負”といった様相を呈している。

 後編「イクラ盛り放題は当たり前? ホテル朝食“激戦区”の北海道で見た驚きの朝食原価」では、北海道のホテルで見た驚きの朝食原価について述べていきたい。

ホテル朝食 センチュリーマリーナ函館の海鮮コーナー(筆者撮影)

(前編了)

著者プロフィール

瀧澤信秋(たきざわ のぶあき/ホテル評論家 旅行作家)

一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。

日本を代表するホテル評論家として利用者目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。その忌憚なきホテル評論には定評がある。評論対象は宿泊施設が提供するサービスという視座から、ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、旅館、簡易宿所、レジャー(ラブ)ホテルなど多業態に渡る。テレビやラジオ、雑誌、新聞等メディアでの存在感も際立ち、膨大な宿泊経験という徹底した現場主義からの知見にポジティブ情報ばかりではなく、課題や問題点も指摘できる日本唯一のホテル評論家としてメディアからの信頼は厚い。

著書に「365日365ホテル」(マガジンハウス)、「最強のホテル100」(イースト・プレス)、「辛口評論家、星野リゾートへ泊まってみた」(光文社新書)などがある。


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