得意先の売掛金を完全回収することだけを考えるのであれば、貸倒リスクがある得意先には予測される損失額を十分にカバーできるだけの担保や保証を要求したり、現金取引だけに限定したりすることになります。
しかし、そのようなことをすれば売上の減少は避けられず、実際に使える方法ではありません。
そこで、現実的な解決策としては、得意先の信用度に影響を及ぼす危険な兆候を見逃さないようにして、貸倒リスクが高まれば素早く撤退できる工夫をすることが考えられます。
また、企業はいきなり倒産することはなく、次のような経緯をたどるのが普通です。
販売不振などの原因で業績が悪くなり、この状態がしばらく継続する。その結果、財政状態や資金繰りも悪化し、支払いの遅延や滞納が生じる。
支払の遅延や滞納が頻繁に生じるようになることで、噂や風評が同業者などの間で広がる。これにより信用不安が生じる。
企業内外の関係者が離脱するようになる。その結果、それまでのように業務を続けられなくなることで支払い不能に陥り、やがて倒産に至る。
第2段階や第3段階で危険な兆候を発見できたとしても、その時点では得意先の売掛金を完全回収するのは実質的に不可能な状態になっていることが大半です。
そのため、得意先の売掛金を完全回収するためには、第1段階で危険な兆候を発見しておく必要があります。
また、第1段階で危険な兆候を発見できた場合でも、撤退を開始して得意先との取引を完全に停止させるまでには相当の時間がかかります。
そのため、まだ得意先の状態が第1段階で留まっていても安心せず、できるだけ早く撤退を決断することが売掛金を完全回収するためのカギになります。
得意先の信用度に影響を及ぼすような危険な兆候を見逃さないためには、得意先管理に関係している従業員全員が与信マインドを持つ必要があります。
与信マインドとは、貸倒れリスクへの警戒意識のことです。
例えば、ある得意先との取引について、ライバル企業が危険を感じて撤退を開始しているために自社との取引が急激に増加していると仮定します。
この場合、与信マインドのない従業員は、売上が急激に増加しているという程度の認識しか持てず、危険な兆候に気付くことができません。
しかし、与信マインドを持っている従業員であれば、自社との取引が急激に増加している背景を調べ、その理由がリスク増大による他社の撤退にあると気付くことができます。
与信マインドを持って、得意先の信用度に影響を及ぼすような危険な兆候を見逃さないようにするためには、信用調査会社などから得意先の決算書などの財務情報を定期的に入手して、安全性などに問題がないのかをじっくりと分析することが大切です。
財務情報はタイムリーに入手できるとは限らず、すでに問題が生じた後で入手できるようになることも多いため、それを補うためにも、業界内での噂といった非財務情報についても軽視しない慎重な姿勢が重要になります。
また、非財務情報は単体では信頼性が低いため、できるだけ提供元が異なる複数の情報を集め、これらの情報を財務情報と突き合わせ、情報の信頼性を高めるための努力をすることも必要です(図表2)。
経理部と営業部の得意先管理の役割を見てみると、経理部は得意先からの売掛金の入金を確認し、入金が遅れているなら得意先へ催促するという役割を負っており、営業部は与信限度額の範囲内で得意先と取引を行うという役割を負っています。
そのため、経理部は営業部が与信限度額の範囲内で得意先と取引を行っているのかを監視する役割も自動的に担っていることになり、営業部からは煙たがられる関係にあります。
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