10月7日、最大震度5強の地震が首都圏を襲い、その翌朝の通勤電車はダイヤが大きく乱れました。駅で人が長蛇の列をつくっている様子を見て、まるでコロナ禍前に戻ったかのような印象を受けた人もいたのではないでしょうか。
それから1カ月後の11月8日、日本経済団体連合会(経団連)が出した「テレワーク見直し論」ともいうべき提言が、話題を呼びました。朝日新聞は「テレワークなどで出勤者7割減『見直すべき』 経団連が政府に提言」と題する記事で、提言内容について次のように伝えています。
“政府が新型コロナ感染拡大対策として呼びかけてきたテレワークなどによる「出勤者数の7割削減」について、「科学的な知見」を踏まえ、なくしていく方向で見直すべきだとする提言を出した”
地震が起きた翌朝の駅で人があふれ返り、入場規制までされた状況からすると、そもそも「通勤者の7割削減」自体が実現できていなかったように見えます。しかし、緊急事態とはいえ出勤者数を一律に7割減らすというのはかなり乱暴な目標であり、事業運営しづらいなど経済活動に支障が出てしまう面があったのも事実でしょう。
とはいえ、経団連の提言には、少なくとも2つの点で違和感を覚えます。
一つは、テレワークを続けるべきだとはしているものの、出勤者の一律7割削減の見直しを提言するだけにとどまり、今後の取り組みについて具体的に言及していないことです。このような姿勢は、会社組織の中で仕事する際には好ましくないと認識されているはずです。
もし、かねてテレワーク推進などの職場改善に取り組んできた会社の社長が、コロナ禍を機に、出勤者を7割減らすよう人事総務部門の担当者に指示していたとしたら、社内でこんなやりとりがなされるのではないでしょうか。
人事総務:「コロナ禍が落ち着きつつある今、出勤者を一律7割減らすという目標は見直すべきかと思います」
社長:「目標を見直すというのであれば、今後はどんな取り組みを進めていくつもりだ?」
人事総務:「テレワーク自体は継続してよいと思うのですが」
社長:「そんなことは当たり前だろう。そもそもテレワークは、働き方改革の一環でコロナ禍前から推進していたはずだ。なのに、結局出勤者の7割削減は達成できずじまいじゃないか」
人事総務:「いや、しかし、7割削減は緊急時に設定された科学的根拠も乏しい目標かと・・・」
社長:「では、今後は具体的にどんな取り組みをするつもりだ? キミは、今の職場体制や働き方に課題を感じてないのか?」
人事総務:「もちろん、課題は感じているのですが……。今後の具体的な取り組みについては、これから検討します」
社長:「指摘される前に、代替案くらい準備しておけ! コロナ禍前の職場環境に戻すつもりか!」
テレワークは、コロナ禍だから推進されてきたわけではありません。その前から働き方改革として、政府が強く推進していたはずです。仮に一律7割削減には無理があったのだとしても、ただ見直しを提言するだけでは、これから進むべき道も見えてきません。経団連は日本を代表する一流企業の集まりです。ただ「目標を見直してほしい」と言うだけの“甘い提言”など、会員企業各社が日常の職場で交わしている厳しいやりとりの中では、決して許されないのではないでしょうか。
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