リテール大革命

有名スーパーが“まさか”の勘違い 想定外だった利用客と、致命的な戦略ミス客層分析をどうする(4/4 ページ)

» 2021年12月09日 05時00分 公開
[佐久間俊一ITmedia]
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コストはそれほどかかるのか

 AIカメラ展開の可否を検討する時、よく聞く声が2つあります。「店舗にカメラをつけようとすると、天井の施工に関わるので、コスト面含めて大ごとになる。だから、なかなか着手できない」という声と「属性を取って効果あるの?」という声です。

 まず前者ですが、天井にカメラを複数設置し、各売り場の顧客属性を抽出できればそれは理想的といえます。しかし、コスト面が問題視され、カメラを設置する案が否定され、結局何もできないというのはよくあることです。1つの棚の上にだけカメラ付きタブレットを設置する選択肢もあります。その際に比較対象となるのがPOPです。タブレットもPOPも、売り場で商品を訴求する役割があります。タブレットで広告を流すのと、POPのどちらがよいか、という議論となります。POPが1枚100円で、AIカメラ付きタブレットが1カ月5000円だとすると、後者はあまりにコスト高と捉えられます。

 だからこそ、ここで私がおすすめするのは、まず入口に1台AIカメラ内蔵のタブレットを設置することです。タブレットには、その日の特売などを知らせる広告動画を流します。しかし、目的は、タブレットに付いたAIカメラから取得する来店顧客の属性です。1つの棚で5000円/月かかるとしましょう。先ほどの議論では、タブレットは販促費をかけすぎという判断で「ノー」となってしまいました。しかし、店舗全体の属性を取るのであれば、全体売り上げに対する5000円/月の投資という考え方になり、Goサインは出やすいはずです。コロナ禍にあっても、過去最高益をたたき出すある小売り企業では、PB品の棚にもタブレットを設置することで、カテゴリーごとの属性を分析しています。

小さなサイズのタブレットを店舗入り口に設置するだけでも十分(画像はイメージ)

 属性を取得する効果については、冒頭で述べたGMSの例が分かりやすいでしょう。データなく判断しては、自社の方向性を大きく見誤る可能性があるのです。そして、ファーストリテイリングのようなスピードある企業に後れを取ってしまうのです。もちろん、データだけに依存するのではなく、店舗で働く従業員が直接顧客を見て感じたこと、直接顧客から得た声をそこに付加することは必須です。

 店舗ごとに細分化した対応が求められる時代です。そのためには、データを効率的に取得する必要があります。そうすれば、これまで知らなかった情報を得られる可能性が高まります。

 DXというと、壮大な響きに聞こえて何から着手してよいか分からない企業も多いはずです。店舗入り口へのAIカメラ設置は、すぐにでも実行できる手法の一つです。店舗ごとの対応強化のために、まずは数店舗からでも導入することで従来得られなかったマーケティングのヒントに出会うはずです。

著者プロフィール

佐久間俊一(さくま しゅんいち)

株式会社インサイト CMO 執行役員

著書に「小売業DX成功と失敗」(同文館出版)などがある。

グローバル総合コンサルファームであるKPMGコンサルティングにて小売企業を担当するセクターのディレクターとして大手小売企業の制度改革、マーケティングシステム構築などDX領域のコンサルティングを多数経験。世界三大戦略コンサルファームとも言われている、ベイン・アンド・カンパニーにおいて2020年より小売業・消費財メーカー担当メンバーとして大手小売企業の戦略構築支援及びコロナ後の市場総括を手掛ける。21年より総合広告会社インサイトのCMO(Chief Marketing Officer)執行役員に就任。

19年より1年半に渡って日経流通新聞にコーナーを持ち連載を担当するなど小売業には約20年間携わってきたことで高い専門性を有する。

日経MJフォーラム、KPMGフォーラムなど講演実績は累計100回。


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