岸田首相も同調した「自社株買い規制」、実現すれば明治時代に逆戻り?古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2021年12月17日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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「新しい資本主義」が数十年の議論を覆す?

 明治時代から長らく禁止であった自社株買いは、1970年以降見直しの機運が高まり、90年代のバブル崩壊後から規制緩和の方向に舵(かじ)を切っていくこととなる。現在のように自社株買いが自由に行えるようになったのは、2001年の商法改正からだ。自社株買いをめぐっては、バブル崩壊による企業価値の行き過ぎた過小評価に対しても一定の効果があることもあり、法による規制から経営者の責任において実行されるという形で徐々に移譲されてきた。

 上場企業が行う自社株買いによって購入された株式は、一般的にその上場企業に保有され続けるのではなく、償却されることになる。これは、自社株買いが配当と同じく一種の株主還元施策の1つとされているためで、市中に出回っている株を償却することによって一株あたり利益(EPS)や、株主資本利益率(ROE)が改善する。これらの財務指標が改善することで、現在の株価が償却前と比べて相対的に割安となるため、株主の利益向上に寄与するというわけだ。

 他にも、株式交換でのM&Aや、ストックオプション行使に際して自社株買いが活用される事例もあり、事業遂行において第三者割当増資のような既存株主にとってマイナスとなることもある施策以外の選択肢を経営層に提供する意味でも、自社株買いには意義がある。

 自社株買いの自由化から20年、「新しい資本主義」は数十年にわたって重ねられてきた綿密な議論を一瞬でひっくり返すほどの権威性があるといえるのだろうか。これについて筆者はやはり疑問を抱かざるを得ない。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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