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そんなに学歴フィルターは「悪」なのか マイナビ「大東亜」騒動で見落としがちな視点「学歴不問」は「実力不問」ではない(3/5 ページ)

» 2021年12月20日 05時00分 公開
[新田龍ITmedia]

 答えはシンプルだ。それは、彼らの多くが「活躍しているビジネスパーソン」=「採用したい人物像」に当てはまる共通の資質を持っている(と期待されている)からである。具体的には、「努力を地道に継続できる」ことと「目標達成意欲が高い」ことだ。

 難関志望校に受かるためには、他の友人が遊んでいる間も計画的かつ継続的な勉強が必要だし、スポーツ大会で結果を残すのにも日々の地道な練習が必須だ。理系院生も同様、研究成果を出すためには研究室に籠り、昼夜問わず堅実に実験と研究を続けていかねばならない。いずれもテーマこそ違えども、「自らの意思で高い目標を設定」し、それを達成するために「長期的に努力を継続する」という行動パターンが身にしみついているはずだ。さらには「アタマの回転が速い(地頭がいい)」「肉体的&精神的にタフ」「チームワークがとれる」「要領がいい」といった要素も彼らに一部共通している。

 これらの資質や素養はビジネス現場においても即生かせる上に、長期的に努力を継続するというスタンスや習慣は一朝一夕で身につくものではない「希少価値」である。応募者が本当にそのような資質を持っているのかを見抜くためには面接官の力量も必要だし、相応の時間をかけてヒアリングしなければならず、選考側も大変だ。

 そのため、まずは「ビジネスパーソンとして有用な資質を平均的に高いレベルで持っていそう」という大まかな見極めとして、「高学歴」「体育会系」「理系院卒」という肩書は大変重宝する指標というわけなのだ。その点においても、学歴フィルターは業務効率向上のための手段の一つであり、決して差別的なものではないと筆者は考える。

画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ

学歴フィルターは「差別」か

 学歴フィルターが差別だとするなら、米国に至っては日本より露骨な差別社会ということになる。大企業ともなると学部卒程度では大卒とは認識されず、修士以上がほぼ必須の職も多い。トップクラスの戦略コンサルティング会社では、ハーバード大学やスタンフォード大学の学生に専門のリクルーターをつけて、積極的な採用もしているという。もちろん、大学在学中の学業のハードさなど彼我の差はあるが、高学歴でなくとも大学時代の経験実績次第でグローバル大企業にも入社できるチャンスのある日本の方が、こと学歴についてはよほど寛容だといえるのではないか。

 ただ、そんなわが国でも、現在からみるとかなり厳格な「学歴差別」を行っていた時代があったことをご存じだろうか。

 日本でも、1970年代まで大企業においては採用対象とする大学を指定し、当該大学以外の学生は採用対象にしない、という「指定校制度」を導入しているところが一般的であった。日経連(日本経営者団体連盟、現・経団連)が66年に実施した調査によると、従業員3000人以上の大企業では75.8%が指定校制度を実施していたとされる。

 この制度は、世論からの批判や、経済成長に伴う労働力不足などを受けてだんだん形骸化していき、80年代以降は指定校を優遇しつつ、他大学からの採用も拡大する動きへと変わっていった。その動きが決定的になったのは、91年にソニーが「学歴不問採用」を打ち出したことがきっかけといわれている。

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