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そんなに学歴フィルターは「悪」なのか マイナビ「大東亜」騒動で見落としがちな視点「学歴不問」は「実力不問」ではない(5/5 ページ)

» 2021年12月20日 05時00分 公開
[新田龍ITmedia]
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 一部の大企業では、学生向け説明会の申込時点から大学名でフィルタリングし、上位校なら空席、下位校在籍者には満席表示として、応募自体を門前払いするケースもあり、そのような機能を実装している求人メディアが存在するのも事実だ。従って、「大学名で差別するのは、就職の機会均等を妨げている」「大学入学時におけるわずかな偏差値の違いで人を判断していいのか」といった批判があるのもよく分かる。

 しかし、これまで見てきたように、学歴も立派な実績の一つであり、個人の資質を表すものだ。学歴「だけ」で人を判断するのがダメなのであって、学歴を「判断材料の一つ」にすることについて全く問題はないはずである。ちなみに今般の東急ストアのケースは、「大東亜以下」の学生も採用対象にしているわけで、単なる「採用対象校設定」にすぎない。もうこの際、暗黙の了解となっているような欺瞞は止めて、「評価基準として学歴フィルターはあります」と各社とも認めでもよいのではないか。

 ただ、それだけでは問題の根本解決にならない。この問題の元凶は、ナビサイト運営会社を中心とする求人メディア各社が巧妙に創り上げてきた「新卒採用の不文律」と、それに乗っかるだけで「学歴」以外の判断材料を持ち得なかった人事、双方の怠慢にあると考えている。

思考停止の採用手法をアップデートすべき

 現時点で、新卒採用において「優秀な学生」「良い人材」を採用するための王道は、まずお金をかけて美辞麗句にあふれた求人広告を作成し、あたかも理想的な職場環境が完備されているかのようにイメージさせ、その広告を基に大量の応募者を集めることで母集団を形成し、その中から上澄みの優秀層を厳選して採用する――という流れになっている(求人メディア各社が「そういうものだ」と啓発することで、自動的に求人広告が売れるというメリットもある)。

 このような採用方法は「何もしなくても応募者が集まり、選考のために人員もリソースも十分に割ける大手企業」を前提とした設計であることを忘れてはならない。中小規模の企業がこのままの流れで実施しようとすると、そもそも母集団形成の時点で無理が出てしまう。結局、前提条件である大量の母集団を確保するために、過剰な演出を施した企業情報を出さざるを得なくなるし、不本意な学歴フィルターで大量の母集団をさばく方法をとらざるを得ず、選考を通して十分なコミュニケーションをとれないまま、入社後「こんなはずじゃなかった」というミスマッチへとつながってしまう可能性が高いだろう。

 人事側も、採用においては無批判に「履歴書とエントリーシート提出」「適性試験」「グループディスカッション」「グループ面接」「個人面接」といった採用ステップをなぞって実施しているが、そもそもエントリーシート作成や試験など応募者にとってかなりの負担と手間をかけさせておいて、判断基準は結局学歴ということであれば、その選考ステップに何の意味があるのかと問い詰めたくもなろう。これまでのルーティンにのっとるだけで、より的確な判断基準や判別手法を持ち得なかった人事の怠慢としかいいようがない。人事領域では「DX推進」とか「戦略人事」など新たな概念がもてはやされているようだが、まずは学歴フィルターに頼る必要のない、応募者にも人事にも効率的な採用手法を創出するところから始めてはいかがだろうか。

著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト。

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員関連のトラブル解決、レピュテーション改善支援を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。厚生労働省ハラスメント対策企画委員も務める。著書に「ワタミの失敗〜『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)、「問題社員の正しい辞めさせ方」(リチェンジ)他多数。


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