21年はアップルのEV事業参入がメディアを賑わせ(アップルからの正式発表はありませんが、多くの企業が同社から協力を打診されているという報道があり、参入に向け本格始動しているのは確実でしょう)、冒頭でも触れたように22年頭にはソニーが本格事業化を発表しています。特にソニーは2年前に同じCESでEVカーを展示した時に、吉田憲一郎社長が「あくまで研究であり、事業化は考えていない」と明言したことを考えれば、180度の方向転換と言えます。
確かにEVはエンジンという特殊な技術開発を必要としたガソリン車と違い、エレクトロニクス技術を持つ企業であれば容易に設計が可能であり、その参入障壁は大幅に下がったと言えます。しかしながら、自動車に最低限求められる「安全性」や「走行性」といった問題は、一朝一夕に解決できるほど甘くないわけで、それでもIT業界が軒並みEV事業に本腰を入れるのには、大きな理由があるからなのです。
アップルやソニーとともにEV事業参入で注目を集めている企業に、台湾の鴻海精密工業(鴻海)があります。鴻海はスマートフォンビジネスにおいてiPhoneの有力下請け先でもありますが、EV事業に関しては一気に主役に躍り出ようともくろんでいるようです。同社の劉揚偉会長は「EV業界でアンドロイドカーを造る」と公言していますが、この発言にこそ、同社をはじめIT業界が共通で狙うEV事業での主導権争いが言い表されています。
「アンドロイドカーを造る」というのは、スマホにおけるグーグルのポジションをめざしていると読み取れます。グーグルはiPhoneの登場で一気にブレークしたスマホ市場において、対抗するためのスマホOSであるアンドロイドをメーカーに無償提供しました。アップルと対峙するメーカーを通じてスマホビジネスをコントロールする支配力を手に入れたのです。このことを思い起こすと、鴻海は自社でのEV製造まで当然視野に入れながらも、戦略の根幹はEV事業におけるコネクテッドカーとしてのソフトウェア部分で支配力を持つことで、今度は下請けに甘んじることなくEV市場を動かそうという野心に燃えていると見受けられます。
このように、EVを次世代ITプラットフォームの本命と考えてビジネスを取りにいくという点では、ソニーも同じでしょう。
吉田社長の「クルマの価値を移動からエンタメに変える」という発言からは、主力事業である画像センサーやクラウドコンピューティング、5Gなどの技術に加え、得意分野であるエンタメ資産や保険業務、金融サービスまであらゆる事業を駆使して、EV開発の名の下に今はまだ具体像をイメージしにくい全く新しいモノを創り出そうとしているのではないか、とまで想像力をかき立てられるところです。イヌ型ロボット「アイボ」で培った、クラウドでのソフト更新で機器を進化させる技術とリカーリングモデルは、必ずやEV事業にも活用されることでしょう。
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