西武HDの「外資にホテル売却」が、“残念なニュース”でない理由スピン経済の歩き方(2/6 ページ)

» 2022年02月08日 09時43分 公開
[窪田順生ITmedia]

「持たざる経営」で成長

 今、世界各国でホテルを運営しているような大手企業は1980年代から、ホテルを所有しないで運営に特化するという「持たざる経営」で成長してきた事実がある。ホテルを所有するファンドや不動産業者と契約を結んで自社はホテルの運営に集中。固定費負担を低く抑えて、次々とフランチャイズを展開して事業拡大してきた。自分たちで所有していたホテルも軌道に乗ればファンドなどに売却して、その資金で新たなホテルの運営に乗り出していくのだ。

 その代表が、全世界に約7600のホテルを持つ最大手マリオット・インターナショナル(以下、マリオット)だ。ホテルオーナーと運営委託契約して、売り上げに応じて手数料を受け取りながら、人件費や光熱費などはオーナーが負担してもらうのでコストがからない。この「持たざる経営」が実はホテルにとって、最適なスタイルだったということをあらためて証明したのが、コロナ禍だった。海外渡航制限で世界の観光ビジネスが大打撃を受けて、大手ホテルが赤字を垂れ流す中で、マリオットは黒字をキープしている。

マリオット・インターナショナルは「持たざる経営」で有名だ

 世界では40年ほど前からホテルの「所有」と「運営」の分離が進められてきたのに対して、われら日本のホテル業界はどうかというと、今回のニュースをネガに捉える国民が多くいることからも分かるように、老舗の大手ホテルでは「所有と運営の一体」が常識となっている。その代表が、「日本のホテル・レジャー業界で最大級の事業規模」(プリンスホテルHPより)を誇る「プリンスホテル」だ。

 2021年10月11日の『日本経済新聞』によれば、マリオットの総資産に占める有形固定資産の比率は9%で、所有型ホテルが多いと言われるハイアットは40%だった。では、プリンスホテルはどうかというとなんと88%にも及んでいる。

 つまり、世界のホテル企業が40年前から進めていた戦略と180度真逆のことを進めてここまで大きくなってきたプリンスホテルは、日本という特殊な市場の中で進化を遂げた「ガラパゴス企業」なのだ。

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