もちろん、このような危機感は業界でもかなり前からあった。例えば、今から20年前、日本ホテルチェーン協会の会長も務めたロイヤルパークホテルアンドリゾーツの中村裕社長(当時)は、相次ぐ外資の進出に危機感をあらわにして、このように述べている。
『物件を保有するのはリスクが大きいし、展開も遅れてしまう。所有と運営の分離が日本のホテル業界でも当たり前になるだろう』(日本経済新聞 2001年10月2日)
では、なぜ日本のホテルは「やばいよ、やばいよ」と言いながら、「所有と運営の分離」を進められなかったのか。よく言われるのが、「土地本位主義」だ。西武HDももともとは「国土計画株式会社」(後のコクド)という不動産開発会社がルーツにあるので、DNA的にとにかく土地・建物を持っていれば経営が安泰という「信仰」があるのだ。
また、不動産を持つことで金融機関への信用が高まり、スピーディーに資金調達ができて、施設の改装、拡大、周辺の開発、さらには従業員の雇用安定につながる、などのメリットがあるのが、日本のホテル企業経営者に魅力的に映ったからだという指摘もある。
ただ、個人的にはやはり、「現状維持が許される限りビジネスモデルの転換はしない」という日本の企業カルチャーが大きかったのではないか、という気がしている。『日本経済新聞』(2021年3月22日)によれば、西武HD社内でも以前から「土地本位主義」は問題視されていて、経営幹部から「いびつなバランスシートだ。収益力に対して資産が大きすぎる」という声が上がっていた。しかし、その一方でこんなことを主張する経営幹部もいたという。
『品川や高輪、芝公園、軽井沢、富良野など立地のいいものをわざわざ手放すことはない。資金繰りや財務基盤に余裕があり、現状で積極的に売却などを進める段階ではない』(同上)
一見、慎重で理知的な意見だが、「もったいないから、いけるところまでいきゃいいじゃん」という改革に腰が引ける「事なかれ主義」を正当化しているようにも聞こえなくなくもない。
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