日本などさまざまな外国資本を受け入れながら、地元企業や地域住民と「共存共栄」の道を模索していったハワイはその代表である。もしハワイが「ハワイのホテルなのだから地元企業が所有すべきだ! 日本資本など絶対に認められない!」「コロナで日本人観光客が来なくてせいせいした」なんて叫ぶ人々がたくさんいるような地域だったら、世界中の人々から愛されるような観光地にはならなかったし、ハワイ経済も現在のように発展していない。
このように海外の有名観光地、そして大手ホテル運営会社がどのように今の地位を確立したのかということを分析していけば、今回の「プリンスホテルを外資に売却」がちっとも悪い話ではないのは明らかだろう。
しかも、コロナ前から進めていた海外展開を踏まえれば、売却は遅すぎたくらいだ。というのも、実はプリンスホテルは18年に、英国・ロンドンの5つ星高級ホテル「The Arch London(ジ・アーチ ロンドン)」の運営会社を買収して、19年にプリンスの名を冠した初めてのグローバルブランド「ザ・プリンス・アカトキ」として開業している。これは中国・広州に続いて、バンコクにも開業していくという。
こういう「所有」ではない「ホテル運営に特化」へとシフトして、マリオットやハイアットなどそうそうたるプレイヤーとガチンコ勝負をするのなら、1日も早く「有形固定資産比率88%」なんて偏った財務体質にメスを入れなくてはいけなかったことは言うまでもない。
西武HDの「プリンスホテルなど30施設を外資へ売却」というのは、日本のガラパゴス企業がようやく世界を相手に熾烈(しれつ)な競争に参入したという前向きな話であって、ちっとも“残念なニュース”ではない。
むしろ日本経済的には、このニュースに対して、「資産を外資に売っちゃうなんて、あの会社ももう終わりだな」なんて反応が多いことのほうが「残念」と言ってもいいかもしれない。
われわれ日本人がいまだに「不動産をたくさん持っている会社は信用できる」というゴリゴリの土地本位主義に取り憑(つ)かれていることと、幕末の「攘夷運動」からそれほど変わっていない強烈な外国資本への嫌悪感がある、という2つの“残念な現実”を浮き彫りにしてしまっているからだ。
世界と比べて40年ほど遅れた感はあるが、「所有と運営の分離」に踏み切った日本を代表するホテルチェーンがこれからどんな戦いをしていくのか期待したい。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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