宇野昌磨選手と“りくりゅう”ペアの足元支えた国産ブレード 創業95年の老舗メーカーが挑んだ初五輪開発着手から9年、メダル獲得に貢献(4/4 ページ)

» 2022年02月20日 09時10分 公開
[樋口隆充ITmedia]
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今後は販路拡大に注力

 こうしたことから、今後はスケート専門ショップへの納入や、販売代理店の整備など販路を拡大する方針だ。石川マネジャーは「個人(小塚さん)に依存する形では限界があるので、まずは手に取ってもらう機会を増やし、トップ選手以外でのシェアを伸ばしていきたい」と意気込む。日本国内でシェアを拡大しつつ、将来的な海外進出も視野に入れている。

photo 自身が開発したスケートブレードを持つ石川マネジャー

 フィギュア以外では、アイスホッケーやスピードスケートなども同様に氷上でブレードを使用する。他競技への事業拡大の考えを聞くと「チャンスがあれば取り組みたいとは思っているが、現時点では需要が非常に少ない。海外製で間に合っているのか、選手から、小塚さんの時のような困りごとも出てきていない」と否定的だ。まずはフィギュアに絞って、事業を展開する考えだ。

「正直、商売としては成り立たないレベル」

 気になるスケート事業での売り上げについても聞いてみた。具体的な数字は開示しなかったが「正直、商売としては成り立たないレベル。選手にいいものを履いてもらいたいという一心で商売度外視でやっている感じ」と明かす。

 同社は21年10月、「小塚ブレード」に続き、標準モデルに当たる「YSブレード」を発売した。石川マネジャーは「小塚ブレードは、小塚さんのこだわりや思いが詰まった専用モデル。一部には『(足に)合わない』という声もいただいていたので、より多くの選手に使ってもらえるよう、小塚ブレードとは別に標準的なモデルを開発した」と開発の狙いを説明。宇野選手が五輪で使用したのも、同製品をベースにしたモデルだという。製品名のYSは、社名の「Yamaichi Special Steel」(Special Steelは特殊鋼の意味)などに由来する。

 価格も両足で14万8500円とし、海外製品よりも安めに設定した。石川マネジャーは「耐久性が高いため、コストパフォーマンスは高いのではないか」とし「中部地方はスケートが盛んな地域。今後も社会貢献の一環として事業を展開していきたい」と意欲を見せた。

photo 21年10月に発売した「YSブレード」(同社提供)

 開発から9年かけて、ようやくたどり着いた初五輪では、宇野選手とりくりゅうペアがメダルを獲得した。これに対しては「おめでとうございます」と祝福。「結果よりも、怪我無く無事に競技を終え、選手が納得できる演技ができたなら、提供元としては本望。引き続き、りくりゅうペアと宇野さんにも使っていただき、いいパフォーマンスをできるよう、われわれも改善を重ね、選手に貢献していきたい」とコメントした。

 4年後のミラノ五輪では、山一ハガネ製ブレードが表彰台を独占――という光景が現実になるかもしれない。選手の活躍とともに、同社の動向にも今後、注目が集まりそうだ。

photo フィギュアスケートの競技会場(出典:オリンピック公式Twitterアカウント)
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