取締役会の実効性向上に向けた対話フィデリティ・グローバル・ビュー(2/2 ページ)

» 2022年02月24日 15時00分 公開
[井川 智洋フィデリティ投信]
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会社法改正で明らかになった再一任の実態

 2021年は、コーポレートガバナンス・コードの改訂に加え、3月に施行された会社法の改正も日本企業のガバナンスを考えるうえで大きな動きとなりました。会社法改正に伴い、上場企業は、取締役の個人別の報酬等の決定を代表取締役に委任(以下、再一任)している場合、その旨事業報告に記載することが求められることとなりました。業務執行と取締役会の一体化、年功序列、終身雇用などの日本企業に見られる特徴は、代表取締役をトップとして取締役間で上司、部下の関係を生み、本来取締役会に期待される、代表取締役に対する監督機能の弱体化につながっている懸念がありました。再一任の慣行もその一例です。

再一任廃止に向けたフィデリティの対話とガバナンスの進展

 今般、会社法改正により再一任の実態が明らかとなったことから、フィデリティでは、2021年6月総会に向けて議決権行使ガイドラインの改定を行い、再一任がされている場合、経営トップへの過度の権限集中に対する懸念から、当該経営トップの選任議案に反対することとしました。改訂に先立ち、法的に取締役報酬が指名委員会で決定される指名委員会等設置会社を除くすべての投資先企業に対して、ガイドラインの改定を書面で通知しました。また、通知だけにとどまらず、主要な投資先企業36社と対話を行い、取締役会の実効性に対する当社の懸念を伝え、再一任の廃止の必要性を訴えました。

 その結果、対話から事業報告の発行までわずかな期間しかなかったにもかかわらず、36社のうち15社が再一任手続きを廃止し、取締役会での決定もしくは報酬委員会に決定を委任するプロセスへ変更したことが事業報告で確認できました。

 再一任を廃止した企業の中には、創業者が経営トップとして強力な影響力を有している企業も含まれ、当該企業のガバナンスの進展を実感することができました。残りの企業についても、対話を継続しています。

 今回の企業との対話で分かったことは、一部の企業では会社法改正の主旨まで把握しておらず、単に手続き上の改正と捉えていたことです。こうした企業の多くは、フィデリティとの対話を通じて改正の背景に取締役会の実効性向上の狙いがあることを理解し、再一任廃止に前向きに取り組んでくれました。

 日本企業の取締役会の実効性を向上させるうえで、独立した指名委員会・報酬委員会の設置、取締役報酬の決定プロセスの透明性向上という、2つの大きな動きに対して、フィデリティは積極的に投資先企業との対話に取り組みました。引き続き、投資先企業の持続的な企業価値向上に向けて尽力していきます。

井川 智洋

フィデリティ投信 ヘッド・オブ・エンゲージメント兼ポートフォリオ・マネージャー

投資する企業や将来の投資先企業のサステナビリティー課題解決に向けた対話を通じ、企業価値向上に貢献できるよう活動しています。 また、フィデリティ投信におけるESGインテグレーションを推進する観点から、ポートフォリオ・マネージャーも兼務しています。


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