なぜ「時速5キロの乗り物」をつくったのか 動かしてみて、分かってきたこと「実証実験」の結果(2/4 ページ)

» 2022年02月27日 07時30分 公開
[土肥義則ITmedia]

ゴミ収集車に着目

 時計の針を18年に戻す。関西電力で働いていたメンバーは、業務外に「なにか新しいことはできないかな?」と探っていた。「時速5キロの乗り物」ありきではなく、着想を得たのはゴミ収集車である。作業員が収集車の後ろにピョンと乗り込む姿を見て、同社の財津和也さん(エンジニア・クリエイティブ担当)はこんなモビリティはどうかと考えた。「好きなところで乗って、好きなところで降りる」――。

 バスでもなく、タクシーでもなく、考え方としては「動く歩道」に近い。目的地の方向と同じなので、動く歩道に乗るといった感覚である。発想はユニークである。ただ、当時のメンバーの中にモビリティづくりに携わった人間はいなかった。関西電力で働く財津さんもIT畑で、門外漢である。ド素人だからあきらめるのではなく、ド素人だからこその強味を生かしたのだ。それは、常識にとらわれないアイデアと行動力である。

ゲキダンイイノのメンバー

 メンバーが着目したのは、ターレットだ。動力部が円筒になっていて、360度回転するアレである。市場などで荷物を運ぶために、キビキビと動いている姿を見たことがある人も多いだろう。ターレットの構造をベースに、荷台のところに人が乗れるようにしたり、寝転ぶことができるようにしたり、最大5人まで乗車できるようにしたり。さまざまなことに取り組んでいる中で、筆者が気になったのは2月に実施した「実証実験」(2月2〜11日)である。

 神戸市の三宮を舞台に「ウォーカブルシティ」を見据えて、「iino」に注目が集まっていたのだ。「なんか聞いたことがないカタカナの言葉が出てきたけど、それってなに?」と思われたかもしれなので、簡単に紹介しよう。ウォーカブルシティとは「歩きやすいところ」「歩いて行ける街」を意味する。クルマを利用するのではなく、自転車や電動車いすなどを使うことによって、気軽に歩ける街づくりが欧米を中心に広がっているのだ。

山と海をコンパクトに感じる神戸三宮で実証実験を行う

 このウォーカブルシティを推進している街は、どのくらいあるのあろうか。ちょっと古いデータになってしまうが、21年4月末現在で308自治体である。そのうち、約20%は具体的な計画を練っていて、予算確保などに動いている。われわれが気づかないうちに、「なんだか歩きたくなるよ」「ここは安全だなあ」と感じるところが広がっているのかもしれない。

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