コストにこだわり残高2兆円 インデックス投信eMAXIS Slimの次の一手金融ディスラプション(3/3 ページ)

» 2022年02月28日 07時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]
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信託報酬コストの競争は一段落? 隠れコストに注目集まるが……

 他社よりも低いコストを保証する、というやり方で、国内インデックスファンドのトップを走ってきたeMAXIS Slimシリーズ。しかし、信託報酬が0.1%を切るレベルになってくると、そろそろ信託報酬以外のコストが注目されてくる。

 実は投資信託には信託報酬以外にもコストがかかる。例えば、監査費用、保管費用、取引コスト、税金などだ。信託報酬は事前に率が決定しており、目論見書に記載されている。しかし、こうしたコストについては事後に決定され、運用報告書に額が掲載される。コストは信託報酬だけだと思っていたら、実際にはそのほかにもコストが掛かっていた……という理由で、俗に「隠れコスト」と呼ばれるものだ。

 信託報酬0.0968%のeMAXIS Slim米国株式の場合も、こうしたその他費用を足した総経費率は21年4月26日までの年間実績で、0.12%。信託報酬がこれだけ下がると、その他費用0.02%という「隠れコスト」は無視できるものではなくなってきた。

21年4月26日(第3期)のeMAXIS Slim米国株式の総経費率。いわゆる隠れコストが0.02%に達している(運用報告書より)

 しかし、今井氏は「隠れコストはミスリードする概念」だと言う。それはスキームの違いや売買手法によって、手数料などがその他費用に入るかどうかも変わるからだ。例えば債券の場合、売買コストが価格自体に入ってしまう。株式でも発注の方法によっては価格に含まれてしまう。

何のコストを信託報酬に含めるかは、投信によって違いがある。例えば、法定書類作成コストを信託報酬に組み込まず、その他費用に入れ込むことで、信託報酬が低く見せている投信も存在する(金融庁によるプログレスレポート2021より)

 マザーファンドを通じて株式を買い付けるeMAXIS Slimシリーズとは違い、ETF(上場投信)を通じて投資する投信の場合、純資産総額が小さくても運用できる一方で、取引コストや信託報酬が二重に発生したり、三重課税となる場合もある。そして、これらコストがすべてその他費用に含まれるとは限らない。

 そのため、「今後は価格かい離が重要になってくる」と今井氏。これは、目標とする指数とどれだけ連動した値動きになっているかを表す概念だ。インデックスファンドの理想は、S&P500などの指数と全く同じ動きをすることだ。しかし、信託報酬や取引コストが下振れの圧力となるほか、指数にうまく連動させるには組み入れ方の工夫や、先物の活用などさまざまな手法の利用が重要になる。

 「信託報酬がこれだけ下がってきたあとは、連動性、運用の品質の勝負になる。他社商品を意識してというより、自分たちを高めることが結果的に差別化になる」と今井氏。

 低コスト化を特徴として支持を得てきたeMAXIS Slimだが、実は直近1年は一度も信託報酬の引き下げを行っていない。インデックス投信の差別化ポイントも、単なる信託報酬の低さから、次のステージに進みつつあるのかもしれない。

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