この伸びの理由はどこにあるのか。そこには、投信の販売チャネルの大きな変化が影響している。「若い人が投資を始めたのが大きい。これまでの投信業界は、販売員経由で売れるものだった。ところが、自身でネットで調べて買う若年層が、選んで買ってくれた」と野尻氏は言う。
販売員が顧客に“お勧めする”形で売れる投信とは違い、顧客が自ら調べて選ぶ投信では、シンプルで分かりやすい“低コスト”が大きな強みとなる。「固定コストである信託報酬を、他社が引き下げたときには引き下げるという形で続けてきた、コストにこだわったブランドとして認識されてきた」(デジタル・マーケティング部長の今井俊輔氏)
情報を伝達する手段もブロガーやYouTuberなどだ。初期からブロガーミーティングなどを頻繁に開催し、ネット上のインフルエンサーとの情報交換を図ってきたことが、eMAXIS Slimシリーズの強みとなった。「投信ブロガーが選ぶFund of the Year 2021」では、1位と4位にeMAXIS Slimシリーズが入っており、直近では4年連続でトップを取っている。
つみたてNISAのスタートと、コロナ禍でリモートワークが増加する中、選ばれたのはネット証券であり、そしてネットの中で評価される低コストインデックスファンドのeMAXIS Slimだったというわけだ。
一方で、低コスト化の弊害も見られるようになってきた。売れ筋のeMAXIS Slim米国株式の場合、信託報酬は0.0968%。これは100万円の残高に対して968円のコストでしかない。
1兆円の残高に対して、運営会社の取り分は0.034%。ざっと年間3億4000万円の収益だ。そしてこれは約700億円の収益を持つ三菱UFJ国際投信にとっては、1%にも満たない額でもある。
「びっくりするほど利潤が薄いのはその通り。もともと残高が大きくなればペイするという考えでやってきた。最初は安くてうれしいという声が多かったが、最近は大丈夫か? と変わってきた」と今井氏は言う。
投資家にとってはコストが下がるのは歓迎すべきことだ。実際、海外の大手インデックスファンドでは、さらに信託報酬は低く、S&P500連動のETFでは0.03%まで下がっている。一方で、あまりに運営会社の利益が小さいと継続性に疑問もわく。実際、投信ブロガーが選ぶFund of the Yearの表彰式でも、行きすぎたコスト競争で継続性は大丈夫か? という声も出ていた。直近では、クレジットカードによる投信積み立てで、1%のポイント還元策の採算が合わなくなったと、還元率を大きく引き下げる楽天証券の例もある。
「途中で立ちゆかなくなったから辞めますということはあり得ない。黒字かどうかはなかなか言いにくいが、拡大すればするほど赤字が増えるとということは、全くない」(今井氏)
そもそも、eMAXIS Slimはネット証券専用に開発し、目論見書を印刷しないなどのコスト削減を推し進めて低信託報酬を実現した投信だ。兄弟投信であり店頭販売も行うeMAXISシリーズとはマザーファンドを共有しており、単体での損益が明確な仕組みでもない。
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