同社の「顧客別PL(損益計算書)」作戦がそれです。年間購買額に応じて顧客を4つ以上の階層に分類し、階層ごとに販促費予算を決めて戦略的にそれを使うことで、全体の収益を上げるという手法です。すなわち、大衆向けの売場人員を減らして現在全国約30万人の外商人員のさらなる増加に充てるとか、年間購買額が一定以上の顧客だけを対象とした催事やネットでの販売会も企画し、富裕層取引を全体売上のけん引役として明確に位置付けていくのだといいます。
同じ名門呉服屋系の大丸松坂屋は、少し状況が異なります。銀座店など一部の付加価値が高いリアル店舗は、世界の高級ブランドショップへの賃貸をメインとして不動産業収入で底支えしつつとしての一面を持たせつつ、その高級ブランド品を外商が富裕層顧客に売り歩くスタイルをとっています。不動産賃料という安定収入を得ながらも、外商ビジネスの利幅の縮小や、バイヤーの仕入れ力の低下など、問題を内包しているのも事実でしょう。不動産をあくまで自前で活用し売り場の人件費負担を強いられる三越伊勢丹、外商利益は削りつつも不動産収入で基盤を固める大丸松坂屋、現状ではまだどちらも決め手に欠く印象が強いです。
一方海外からは、業界にかすかな陽を照らすような動きも聞こえています。タイの小売り最大手セントラルグループが、欧州の名門百貨店を次々傘下に収める動きがそれです。
イタリアのリナシェンテ、デンマークのイルム、ドイツのKaDeWe、スイスのグローブスに続いて、英国の名門百貨店セルフリッジズを買収したとの報道がありました。その狙いは、世界の名門百貨店との連携によりコロナ禍にあってなお購買意欲旺盛なアジア市場への積極的な商品投入を行い、オムニチャネル化も含め相乗効果を狙うとのことです。特に高級ブランドとの結び付きが強い欧州の百貨店は、強力な推進エンジンになると見ているようです。しかし多額の投資が前提であり、狙い通りの効果が出るには時間が必要との報道も同時に伝わっており、まだまだ国内のヒントにするには心もとない状況です。
このように富裕層取引、高級ブランド、オムニチャネル化、不動産活用など、百貨店再生のキーワードはいくつか見えてはいます。それらをいかに掛け合わせて新たな成長戦略を描いていくかが、百貨店生き残りの道であることは間違いありません。しかしそれが一筋縄ではいかないからこそ、セブン&アイがそごう・西武を放り出すことになったともいえます。すなわち、これら再生キーワードのバランスが崩れれば、名門百貨店でもそごう・西武のようにファンド主導で最悪は解体・バラ売りもあり得るのではないか、ということになるのでしょう。
つい先日、銀座と浅草の2店舗を単独路線で生き抜いてきた老舗百貨店の松屋が、所有の銀座コアビルの敷地や建物の一部を再開発に絡んで不動産会社に売却したとの報道がありました。資産売却によって手元資金を確保し、利益計上もして見かけ上の黒字化を優先する動きが出てきたと見ています。言い換えれば、いよいよ百貨店の所有資産、所有財産の切り売りが始まったともいえます。百貨店の明日は、ファンドによる買収〜解体か、はたまた自己資産の切り売りによる縮小〜消滅か。昨今の業界を巡るニュースからは、「百貨店が日本からなくなる日」が現実味を帯びてきたとの印象ばかりが感じられます。われわれが子ども時代から特別な存在として憧れ親しんだ「夢を売る百貨店」の復活はもう望めないのでしょうか。
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