リテール大革命

実はAIを使っている、長崎ちゃんぽん「リンガーハット」 予測精度が突如ダウン……どう立ち向かったのか?発注量を自動調整(3/3 ページ)

» 2022年03月10日 07時00分 公開
[吉村哲樹ITmedia]
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22年秋に新しいシステムをリリース予定

 この新たなAIモデルは、21年12月から限られた店舗で試験的に運用を始め、22年2月時点では、まだチューニング作業の途上にある。最終的な予測精度としては「誤差をプラスマイナス5%以内に収める」ことを目指しているが、現時点ではまだその域には達していないという。

 「これは従来のモデルにもいえることなのですが、各店舗の立地などによって変動要因がさまざまに異なります。ですので、現状では店舗ごとに精度の誤差がかなりある状態です。例えば、商業施設に入っている店舗は、商業施設がチラシを配ったり、イベントを催したりすると急に客足が増えます。このように店舗ごとの固有の影響要因は、その店舗の店長であれば事前に予測できますが、本社が全てを把握してAIモデルに反映させるのは決して容易ではありません」

 こうしたハードルを乗り越えるべく、AIがはじき出した予測と実績との誤差を分析して結果を取り込む──など、さまざまなアイデアを試しながらチューニングを繰り返しているところだという。

photo 店舗の立地ごとに変動要因が異なるため、本社が全ての要因を把握し、AIモデルに反映させるのは至難の業=写真はリンガーハットの1号店である長崎宿町店(同社提供)

 現時点では改修前後での精度を比較・検証している段階なので、新たなAIモデルの本格運用にはもう少し時間がかかりそうだ。ただし、リンガーハットは22年秋には、この新しいAIモデルをベースにした自動発注アプリを全店舗に導入する予定だ。是末氏も「この計画は十分達成できると思います」と自信をのぞかせる。

 AIモデルの開発と並行して、売上予測を基に店舗アルバイトの勤務シフトを自動的に作成する「店舗シフト管理アプリ」の開発も進めている。こちらも22年秋の本格導入を予定している。発注処理とともに多くの店長が頭を悩ませているシフト管理の業務を効率化し、人手不足にも対処する考えだ。

 是末氏は、今回開発するAIモデルを自社内で利用するだけでなく、将来的には取引先とも共用することでWin-Winの関係を築いていきたいと抱負を語る。

 「当社が食材を発注する取引先は、受注量を基に需要を予測して在庫量を決めていると思いますが、在庫切れを何としても避けるためにどうしても過剰在庫になりがちです。そこで当社の売り上げ予測AIを取引先にも開放して、その予測に基づいて在庫を管理していただきます。そうすれば、取引先は在庫量を適正化できますし、それによって当社への卸値も下がるかもしれません。将来的にはこうした使い方にもチャレンジしていきたいですね」

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