ブーム終焉……タピオカの“空き店舗”は今、どうなっているのか廣瀬涼「エンタメビジネス研究所」(2/4 ページ)

» 2022年03月16日 07時00分 公開
[廣瀬涼ITmedia]

なぜ、終焉したのか 「兆し」はコロナ前からあった

 もともと昨今のタピオカブームは、LCC(格安航空会社)就航に伴う台湾フードブームが背景にあり、グルメとしてタピオカは消費されていた。しかし店舗間競争に伴うタピオカ店のブランド化や、インスタ映えを目的とした過度な装飾、見た目を考慮したトッピングなど、味以外の付加価値にも重きが置かれるようになった。

 17年といえば「インスタ映え」が流行語大賞に選ばれるなど、特に若者の間で「SNS投稿を行うことで消費が完結する」という消費文化が浸透していた頃だ。これと相まって、タピオカはいわゆる「映えフード」となり、写真を撮ること自体が消費目的に変化していった。一時期、ほとんど飲まないで廃棄されることが問題にもなった。

photo タピオカは「映えフード」となり、写真を撮ること自体が消費目的に変化していった=写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 この頃からタピオカ消費の構造は、味を求める消費者と、エンターテインメント性を求めて消費する層に二極化していった。エンターテインメント性を求める消費者は「味そのものよりも、有名店の味を楽しむために並ぶ」「友達と交友の一環で購入する」「おしゃれなモノを購入したことをSNSに記録(投稿)し、他人に見せるために購入する」などの目的で消費していた。タピオカを購入することに付随した付加価値(体験)が求められていたわけであり、「トキ消費」や「コト消費」の側面を持っていたのである。

 言い換えればタピオカは、トキ消費やコト消費を行うための手段にすぎず、彼らにとっては代替の効くものだったわけだ。そのため、新型コロナウイルスの流行に伴い、マスクの着用や食べ歩きの敬遠が進むと、消費が伸び悩んでしまったのは何ら不思議なことではない。

 筆者自身、新型コロナ流行の前からブーム終焉の兆しを感じていた。20年の初めにはスーパーマーケットやファストフード店にも簡易的なタピオカドリンクが並び、誰もが気軽に並ばずとも購入できるようになった。こうしてトキ消費やコト消費としての価値が失われていた。

 行列は、流行度合いを可視化するそのものだ。行列に並んだり、売り切れてしまったりすること自体が、希少性を生み出していた。いつでも手に入る、並ばなくても手に入るという状況が続くことは、タピオカの情緒的な価値自体を陳腐化させ、目新しいものに食いつく若者は、少しずつ飽和したタピオカブームから離れていったとも考えられる。

タピオカ店は今、どうなっているのか

 コロナ禍で多くの飲食店がフードデリバリーサービスへの対応に追われた。タピオカ専門店もその多くが生き残りをかけてフードデリバリー事業に参入したわけだが、ドリンクとデリバリーの相性はよくはない。

photo 写真はイメージです(提供:写真AC)

 タピオカでいうと、配達中に氷が溶けて味が薄まることもある。ましてや“映えフード”としての需要が高かったこともあり、家で消費すること自体、魅力を半減させてしまう。先ほど述べた通り、昨今では本業の傍ら、副次的にブームの食べ物を販売する企業が増えていることから、ブームが過ぎると撤退し、それに代わる何かにスイッチする企業も多い。そのため、タピオカに見切りをつけた企業がコロナ禍で撤退していったことは自然な流れともいえるだろう。

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