無視できなくなった「ESG投資」 AIで「有望な企業」の見極めが加速?金融の新しいトレンド(2/4 ページ)

» 2022年03月22日 09時20分 公開
[ITmedia]

 図1の概念図は、財務省の広報誌「ファイナンス」(20年1月号)に掲載されたESG解説記事から引用したものである。ここで示されているように、SDGsは企業が賛同し、それを目指して取り組む目標として位置付けられる。そうした企業に投資するのがESG投資というわけだ。

photo 図1:ESGとSDGs、PRIの関係(財務省の記事をもとに筆者作成)

 また、この図にあるPRI(Principles for Responsible Investment、責任投資原則)とは、国連が05年に発表したルールで、投資家に対して投資を行う際の原則を示したものである。PRIは6つの原則から成り立っているのだが、その中で企業に対してESGへの取り組みに関する情報開示を求め、投資判断の際にESGに配慮することを定めている。つまりPRIを受け入れた投資家は、必然的にESG投資を行うことになる。前述の財務省の記事によれば、PRI署名機関数は19年の時点で既に2372となっており、その総運用資産残高は86.3兆ドルにも達している。

分析のマンパワーが追い付かない

 このようにESG投資は、すでに企業に対する投資において無視できない流れとなっている。また企業の側でも、投資を呼び込むために、SDGsへの取り組みや関連情報の開示を積極的に進めるようになっている。金銭的な面で企業の価値を測る情報源としては、財務諸表など、これまで長い時間をかけて改善・ルール化されてきたものがあるが、自らが社会にどの程度貢献しているかを示すためには、非財務情報の公開が欠かせないからだ。

 これに対して、投資家や金融機関の側も、ESGに関係する非財務情報の内容を正しく判断することに取り組んでいる。その中心となるのは人間による分析で、「ESGアナリスト」という新たな専門職が生まれている。

 ESGアナリストは文字通り、投資候補となる企業(さらにはその競合企業や業界、社会全体)のESG活動に関する情報を集め、それを評価して数値などの客観的な形で示す人物だ。

 例えば、米国の金融サービス企業MSCIは、分析結果をAAAからCCCまでのランクへと変換して、企業のESG格付けを発表している。また企業の持続可能性に特化した評価を行っている米国のSustainalyticsも、0から40+までの数値によるESGスコアを発表している。さらには「ある時点での分析結果」という現状を示すだけでなく、特定の企業に対して彼らの抱えるリスクや課題を示し、改善に向けた提言を行うこともある。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 ただ、こうした分析を行うためには十分な知識と経験が必要であり、育成には一定の時間がかかる。また財務分析と異なり、判断の根拠となるデータには構造化されていないものが含まれているため、企業が開示する長文のレポートを時間をかけて読み込むといった作業が発生する。標準化された判断指標も少ないため、さまざまな投資やアナリストをまたいで、一貫した評価を行うのも困難だ。

 さらにSDGsやESGへの関心の高まりを受けて、それに取り組む企業やESG投資に注力する投資家は増加する一方であり、単純に分析のマンパワーが追い付かないという状況も生まれている。

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