無視できなくなった「ESG投資」 AIで「有望な企業」の見極めが加速?金融の新しいトレンド(4/4 ページ)

» 2022年03月22日 09時20分 公開
[ITmedia]
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 こうしたESG格付けに取り組む新興企業を、従来の格付け企業が買収する例も出ている。日本でもおなじみのMoody's Investors Service(ムーディーズ)は、19年4月にVigeo Eirisという企業を買収している。同社は16年に、仏Vigeoと英Eirisが合併して誕生した企業で、独自の指標に基づいたESGスコアの提供を行うほか、対象企業の気候変動リスクの算出も行っていた。

 Moody'sはその3カ月後にも、AIを活用して同じく気候変動リスクの算出を行っていた企業Four Twenty Seven(427)を買収。これらの企業のサービスを自社サービスと統合し、総合的な企業評価を提供するという戦略を進めている。

Four Twenty Seven社の気候変動リスク算出サービス

ユニリーバのESG投資はさらに高度?

 最後に紹介したFour Twenty Sevenのように、投資家のために企業のESG活動を評価・数値化する評価機関だけでなく、企業のためにESG活動に関するリスクの把握・提言を行う企業でもAIの活用が進んでいる。

 英国の一般消費財メーカーであるユニリーバは、地理空間分析サービスを提供する米Orbital Insightと契約して、自らのサプライチェーンで「ESGの観点から問題となる行動」が取られていないかを監視している。

 地理空間サービスとサプライチェーン監視がどのように結び付くのだろうか。

 ユニリーバは現在、自らのESG活動の一環として、自社製品に使用するパーム油が違法な森林伐採によって得られたものではないことを保証しようとしている。そのためには自らのサプライチェーンに関与する工場や農園、関連企業を追跡し、問題を把握しなければならない。そこでOrbital Insightの地理空間分析サービスを利用したわけである。

ユニリーバによる森林破壊監視の取り組み

 Orbital Insightは独自の地理空間AIを用いて、衛星画像や空撮画像などの各種データを解析し、地表の状態や経済活動といった情報をマクロかつ時系列で把握できるサービスを提供している。

 ユニリーバはこのサービスを使い、衛星データから森林の状態を監視。そこに彼らの契約工場や、その工場に原材料を納入している可能性の高い農園の位置をマッピングして、自らの製品製造にかかわる活動と、森林破壊が関係していないかどうかを把握している。さらに完成した製品や半製品が港にまで運ばれるルートもチェックして、その中で自社が定める環境基準が守られているかどうかを確認している。

 このようにAIをテキスト分析に使うだけでなく、より高度なデータや分析と組み合わせて活用することで、自らの経済活動でESGの観点から問題がある行動を把握しやすくなる。AIはESG活動の結果の評価だけでなく、企業がESGスコアを改善するためにどのような取り組みをすれば良いかを明らかにするためにも、今後さらに活用されるだろう。

 企業が利益と同時に、SDGsなど社会的価値の追求に動くことは、ビジネスの持続可能性を高めて長期的な繁栄をもたらす――これがESGの考え方であり、そうした有望企業を見つけるのもESG投資の目標といえる。であればAIを活用した高度なESG投資、あるいはESG活動の支援は、金銭的な業績評価だけでは分からない、本当に価値のある企業や事業を探し出し、育成するという付加価値をもたらす。ESGとAIのコラボレーションは、社会全体をより良い方向へと導くポテンシャルを秘めているはずだ。

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