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仕事で死ねて本望? モーレツ社員の危険すぎる“過剰適応スパイラル”河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)

» 2022年03月25日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]
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 おまけに、人は「仕事の要求とプレッシャー」が高まると、過剰適応しがちです。

 「もっといい仕事をしたい」「もっと会社に貢献したい」「もっとお客さんを喜ばせたい」といった承認欲求が、「いい仕事をするためには、私的な時間を犠牲にしてもやむを得ない」という誤った判断に導き、自ら“働きすぎ”を拡大するのです。

 難しい仕事であればあるほど、身も心も疲れ果てボロボロになっている状態を、心は「頑張っている自分」と知覚します。長時間労働→疲労→家でも仕事→睡眠不足→脳と体が疲弊→作業能率の低下によるミス→自己嫌悪→挽回するため長時間労働+家でも仕事→さらなる疲労、といった地獄の過剰適応スパイラルから抜けられなくなる。

難しくやりがいのある仕事が、「過剰適応」による過労につながる(提供:ゲッティイメージズ)

 そもそも脳には、疲れの見張り番のようなセンサーがついていて、疲れると「眠ってください」と指示を出します。しかし、それを無視して働き続けると、見張り番自体が故障してしまい「休んでください」という指令を送れなくなります。

 指示が出なけりゃ、「疲れている」と自覚もできません。

 その末路が「過労死」であり、家族の「仕事が好きな人だったので……」という、やるせない言葉なのです。

 私たちがヒトという霊長類の動物である以上、「日が暮れれば寝る」のは至極当たり前で、私たちの身体は「夜は寝るためにある」という前提でプログラムされています。

 どんな素晴らしいキャリアを重ねても、「健康」のボールを落としたら元も子もない。私たちは「仕事」「家庭」「健康」という幸せの3つのボールを持ち、ジャグリングのように回し続けることでしか幸せになれません。

 どんなに「仕事」のボールを高く上げたい時でも、「家庭」と「健康」のボール落とさない、働き方、働かせ方を忘れてはいけないのです。会社は、3つのボールを回し続けられる働かせ方を、させなくてはいけないのです。

 そのためには、管理職の徹底的な意識改革が必然です。と同時に、裁量権を与えることも忘れてはなりません。顧客からのオーダーであっても、「断ることができる」裁量権を。

 そして、その案件が「社運」をかけたものであっても、「断れ!」と断言できる覚悟をトップが持つ。

 その覚悟なくして、「社員の命」を守ることはできないし、経営する資格もありません。

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河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)がある。


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