マーケティング・シンカ論

「対面重視」の美容業界に訪れた“DXの波” コーセーの「触れない接客」に高評価が付く理由ミルボンは美容室の解題に取り組む(1/4 ページ)

» 2022年04月05日 06時30分 公開
[臼井杏奈ITmedia]

 美容業界は、店頭での接客や体験を重視してきた業界の代表格だ。しかし特にコロナ禍以降、消費者のオンライン購買が拡大したことで、企業側にもDXの波が訪れた。

 とはいえ、触って質が分かり、香りを試す化粧品にとって単純なデジタル化だけでは消費者を満足させられない。またこれまで重視してきた“人を介する販売”という体験価値も無視できない。人ありきの美容業界で進むDXとはどういったものか。

コーセーは視覚・聴覚による“カウンセリングのDX”を実施

 コーセーが2021年8月に発表したカウンセリングプラットフォーム「WEB-BC SYSTEM」は注目を浴びた。オンラインカウンセリングの予約から商品購入までをスムーズに完結できる独自システムで、ビデオ通話やチャットで店頭カウンセリングのきめ細かさを再現することに注力した。

コーセー パーソナルビューティコンシェルジュ(提供:コーセー)

 同年9月から、百貨店カウンターで販売する「コスメデコルテ(DECORTE)」のオンラインカウンセリングサービス「DECORTE Personal Beauty Concierge(以下、パーソナルビューティコンシェルジュ)」として運用を開始。サービスは好評で、現在は25〜27日ある予約枠が1日でほぼ埋まる。

 画質や予約画面といったシステム面以上に力を入れるのが、美容部員の接客だ。コーセー セレクティブブランド事業部の命尾泰造グループマネージャーは、「システムはまねしようと思えばできる。私たちはビューティコンサルタント(以下、BC)こそが差別化の源泉だと考え、BCのスキルを高めている」と語る。

コーセーコーセー イメージ画像(提供:コーセー)

 オンラインのBCは現在32人。店頭BCから面接で選考したが、PCを触ったことがない人もいたという。そのため研修ではPCの操作から接客時の画角、話し方まで広くトレーニング。現在も月に2度、オンライン用のカウンセリング研修を行う。

 オンラインのBC教育を担当する、同社セレクティブブランド事業部 美容教育企画課の桑名利佳氏は「店頭とオンラインで大きく違うのが、五感をフルに使えないこと。人は感覚を多く使えば使うほど印象と記憶に残り、魅力が伝わる。しかしオンラインでは視覚と聴覚だけ。残りの感覚を言葉で表すトレーニングを行う」と話す。

 赤色ひとつとっても「温かみのある」など言葉で補うことでイメージが膨らむ。新商品が出るごとに、こうした魅力を伝えるための言葉選びを議論するという。

 商品を実際に試せない分、言葉選びやメイクテクニックのレクチャーなどで体験価値を高める。こうした接客は高く評価され、ユーザーからのアンケートでは心掛けや行動といった接客内容に関する10項目からのクレドアセスメント(行動指針による評価)で10段階中・平均9.2点の評価がつく。

 「肌感だが、店頭だともう少し評価が低くなるのでは」(桑名氏)。評価を下げる理由もシステムなどに関するもので、狙い通り“カウンセリングのデジタル化”に成功している。

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