化粧品以上にデジタル化が難しいのが美容室だ。美容室向けヘア化粧品メーカー大手のミルボンは、美容室専売品をオンラインで販売する「ミルボンiD」を2020年6月にスタート。21末時点で会員数は17万人を超えた。
美容室専売品は通常、美容師によるカウンセリングを経て販売され、販売手数料が店舗に入る。こういった業界特性上、美容室の利益を抜きにしたEC販売はご法度だ。そこで、「ミルボンiD」は美容室でのカウンセリングを行ったのちにEC購入できる仕組みを採用した。
美容室に利益を還元しつつ、ユーザーには美容師によるカウンセリング体験とECの手軽な購買体験を提供する。また美容室の負担になるサイト運営や受注・物流作業はミルボンが担う。
この仕組みの発展には、美容室の協力が欠かせない。カウンセリングに加え、ユーザーへの「ミルボンiD」の紹介も美容師が行うからだ。21年12月末時点で登録サロンは約3200店舗に達したが、こうした数字は営業の地道な活動によるものだと、ミルボン取締役経営戦略部長の坂下秀憲氏は語る。
美容室専売品には競合が多く、「シャンプーが切れたタイミングで美容室に行くわけではない。しかしシャンプーは必需品だから、ドラッグストアで買ってしまう。今はドラッグストアも中価格帯の商品が充実している」と坂下氏。
ミルボンの人気ヘアケアブランド「オージュア」は3000〜8000円台、ドラッグストアの中価格帯製品は1000〜2000円程度のものが多い。一度美容室専売品から離れれば、戻ってきてもらうのは一苦労だ。コロナ禍で在宅が増え、美容室にいく頻度も下がった今ならなおさらだ。
美容室と接する営業担当者は、こうした課題と、それに対応する「ミルボンiD」の仕組みと美容室側のメリットを提示し、登録店数を増やしてきた。さらには、登録作業も伴走だ。
「登録はWebで行うが、フォームの全ての項目を正しく埋めなければ登録画面に進めない。そのため『できない』という美容室には、営業が隣でPCを操作して一緒に登録することもある」(坂下氏)という。さながら保険営業のようだ。
営業はミルボン社員だけでなく、代理店によっても行われる。当然、代理店にとっては手間も増えるが「代理店の中には毎月、自社担当エリアの『ミルボンiD』登録数を調べて、目標を立てて営業活動をしてくださるところもある」と坂下氏。これは代理店、ミルボンともに、美容室とともに成長する専門業者であり、美容室を成長させるという同じ視座を持つ仲間でもあるためだ。
美容室専売品の営業は美容師らに商品特性を説明し、時にトレーニングを行うなど情報伝達の役割も担う。
坂下部長は営業の役割の大きさについて、「ミルボンiDスタート時、社内や代理店向けセミナーを実施した。すると出席した人が同様のセミナーを展開し、情報が拡散された。常に美容師など他の人に伝えることを念頭に話を聞く、というのが営業のスタンスなので、デジタルでも同じように自分の言葉で伝えてくれた」と振り返る。
もともとデジタルに精通した業界でないだけに、こうしたアナログで地道な活動なくして、DXは進まなかっただろう。
こうした努力が実り、「ミルボンiD」は平均購入単価は1万2000円と、店舗平均の4872円と比べて非常に高い成果を上げている(ミルボン経営指数調査2021より)。
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