今回話題となっていたバークレイズ証券を巡る記事では、裁判所の判断をそれぞれ解雇権濫用の法理と照らし合わせて解説するにとどまっていたが、本稿ではせっかくなので、バークレイズ証券側の落ち度についてもう少々突っ込んだ分析をしていきたい。
一言でいえば、バークレイズ証券の労務管理と、今般の退職勧奨から整理解雇に至る対応は「準備不足」であり「ずさん」であった。
既に裁判中でも指摘されている通り、同社は「外資系の雇用慣行は違う」と主張しているものの、実際にその外資系の雇用慣行で運用されていた形跡が見えないのだ。例えば、バークレイズ証券が「男性は、いわゆる『ジョブ型雇用』のように、職責や期待される業績について明示されたポジションで採用されたわけではなく、社内昇進の結果としてポジションに就いている」と主張する職責や評価について事前合意がなされていたとは認められなかった。
また、「男性はそれまでの勤務評価において、成績・態度の不良は指摘されておらず、一貫して賞与が支給されていた」という主張に対しては、業績不良が継続しており、それが低評価や指導記録、懲戒処分記録として残っていれば解雇も有効だったかもしれないが、その記録がなく、会社側が主張する「勤務成績」との理由が通用しなかった。
「男性が退職勧奨に応じなかったので、整理解雇した」という主張はどうだろうか。この点は、退職勧奨時点で応諾を得られるだけの、魅力的なオプションや説得力ある根拠がなかったとされる。もし、当該男性をどうしても退職させたいという明確な意図があったのであれば、いわば一つのプロジェクトとして数年がかりで周到な準備をしておき、万全の体制で臨むべきであったはずだが、今般のケースではいかにも準備不足で、解雇という判断もいかにも場当たり的な対応に思われてならない。
本事案について、一部の外資系金融機関勤務経験者からは「実績を出さなければ居場所がなくなるのは外資系では常識」「普通であれば、もらえるものをもらって潔く次の会社に移るものだが……」といった感想も聞かれた。企業側も、男性にそういった対応を期待していたのかもしれないが、次の再就職を考えない人であれば、今般のケースのように「会社と徹底的に争う」という選択肢もあり得るだろう。会社側としても、今後はそのような反応も織り込んで対応を検討すべきかもしれない。
バークレイズ証券側の「これで解雇無効なら、国際企業は日本から撤退する」との主張に対して裁判長が述べた「国際企業の人事労務管理と整合する合理的な労働契約や就業規則を締結、制定したり、解雇の有効性を示す事実の裏付け資料を適切に作成、保管したりすることで対処できる」とは、まさにこれらの事前準備を指す。その点、同社は明らかに準備不足であり、ずさんであった。
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