まず、多くの人がイメージする「外資系企業におけるクビ」とは、文字通りの「解雇」ではなく、「退職勧奨」のことを指す場合がほとんどだ。イメージとしては、対象社員に「辞めろ」と迫って追い出すのではなく、「会社/あなたの業績が振るわないので、これ以上在籍しても、今後給料は上がらないかもしれない」「でも今辞めると、割増退職金が得られるなどのメリットがあるよ」といった形で交渉して合意を取り付け、本人の意思で「じゃあ辞めます」と自発的にいわせるのである。
会社からの一方的な処分ではなく、本人の合意があって成立するものであるから、違法性はない。解雇の場合は今般の裁判のように「整理解雇の要件」を満たしているか否かを指摘されてしまうが、退職勧奨の場合は「適正に下された人事評価」を基にするので合法なのだ。
従って、もともとしかるべき人事評価制度が設けられていて、「過去3回の評価期間中、ずっとABCDのDランクだった」「複数回の懲戒処分を受けた」といった明確な根拠があり、その結果として「あなたは業績/態度が悪いから、退職勧奨の対象になっているのだ」と告げるのは違法ではない。
実際、これまで退職勧奨について争われた裁判において、退職勧奨の「進め方」(執拗な要求、脅迫的な言動)が問題視されたことはあっても、問題がある従業員に対して「会社が退職勧奨を行うこと」は何ら違法ではない、との判断になっている。
例えば、日本IBM社が08年に実施したリストラにおいて「退職を執拗に迫られた」として社員が同社を訴えた裁判があったが、東京地裁では「違法性はない」と判断されている。
同社は直近四半期の業績が思わしくなく、リーマンショックによる将来の事業見通しが不透明になったことから退職勧奨を実施。その対象となった4人の社員が「会社が行ったのは退職強要であり、精神的苦痛を被った」として損害賠償を請求した。
裁判では、会社側が行った退職勧奨の適法性が争点となったが、
――といった点が判断材料となり、4人に対する会社の退職勧奨行為はいずれも適法と認定される結果となった。
このように、会社として適正な制度と客観的な評価実績、条件などが整い、対象社員に対して丁寧な説明と説得がなされれば、実質的なクビも「正当な退職勧奨」として扱われることになる。すなわち、日本の労働法制の中においても、合法的にクビにすることは決して不可能ではないのだ。
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