「バイトテロ」ならぬ「上層部テロ」で炎上の吉野家、それでも株価は上がり続けるワケ古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2022年04月22日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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“優待株”は炎上しても無敵?

 吉野家HDをはじめとした飲食関連銘柄の多くは、株主優待として自社チェーンで使える金券を定期的に株主へ送付する傾向がある。近年の優待株ブームを背景に、投資初心者をはじめとした多くの個人投資家が身近な飲食チェーンの株式を購入している。

 吉野家HDの浮動株比率は70.3%と、売買を滅多にしない固定株主は3分の1もいない。にもかかわらず価格が下がりにくい背景には、浮動株の多くを保有する個人投資家は実際のところは優待目的であり、実質的には固定株主といえるという要因が大きいだろう。

 株主優待は日本特有の制度で、国際的には無意味なものとも思われている節があるが、実際には株価の下支え効果もある。それは、15年ごろに経営危機に瀕した日本マクドナルドの株価動向を振り返ると一目瞭然だ。

経営危機でもほとんど下がらなかったマクドナルド株

 当時の日本マクドナルドは、鶏肉の偽装や異物混入といった問題が相次いで発生したことで客足が遠のいた。運営する日本マクドナルドホールディングス(HD)の14年12月期の最終損益は11年ぶりの赤字となるマイナス218億4300万円となり、翌年の最終損益も349億5100万円と、史上最大の赤字を更新したのである。

 実は、この惨憺(さんたん)たる成績となった当時、同社の株価はほとんど下がっていない。14年1月の始値が2685円だったのに対して、15年12月の終値は2620円で引けている。16年1月に発表された決算発表で一時は2215円まで値を下げる場面もあったが、その翌月には2628円まで買い戻されていた。

 日本マクドナルドHDは、21年6月末時点で30万6570人の株主が存在する。ここで日本マクドナルドHDと時価総額がおおむね同規模の企業をみてみると、例えば時価総額が似通っている光通信の株主数は5591人しかいない。

 株主数に50倍近い格差があるにもかかわらず、日本マクドナルドHDが光通信と同じくらいの時価総額であるということは、日本マクドナルドHDは株主1人当たりの保有割合が小さく、優待狙いの個人投資家が多いということができるだろう。

 これが吉野家HDにも当てはまる。同社の個人株主数は34万人で日本マクドナルドHDの株主数よりも多い。そして、個人株主の所有株式数は合計で約4760万株である。これを一人当たりの持ち株数になおすと、最低単元に近い140株となる。つまり、大多数の個人投資家は100株という最低単元を保有し、優待の恩恵を受けていることが分かるだろう。

 そうすると、吉野家HDも日本マクドナルドHDのように下値で優待狙いの買いが入りやすいといえ、炎上しても株価が下がりにくくなっている要因の1つとなっていると考えられる。

 しかし、「不祥事でも株価は下がらない」という経験則は、慢心やモラルハザードを生み出してしまうというデメリットもある。今回のケースでは、本来は優待株の強みであったはずの部分が弱みとして発現したといえるのではないか。

 件の発言を行なった常務取締役は19日に解任された。これをもって社としての幕引きを図ったかたちとなるだろうが、常務個人ではなく、企業体質にも問題がなかったかを併せて示していくことが求められてくるだろう。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCFO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CFOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


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