増え続ける「ギョーザ無人販売所」はどうなる? ブームの次を見据えた“新たな戦略”長浜淳之介のトレンドアンテナ(3/6 ページ)

» 2022年04月22日 05時00分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

急成長した餃子の雪松

 「餃子の雪松」は、水上温泉で知られる群馬県みなかみ町で1940年(昭和15年)に創業した、老舗中華料理店「雪松」を発祥としている。2016年、3代目が高齢のため、甥(おい)でありYES社長の長谷川保氏が後継となった。長谷川氏は不動産や1000円カットの事業を営んでいて、飲食業とは接点がなかった。しかし、店の名物であったギョーザの味を残し、普及させたいと考えて、工場生産による味の再現を試みた。

水上の老舗町中華、雪松(出所:リリース)
雪松の餃子(出所:リリース)

 18年9月、埼玉県入間市に生ギョーザの直売所を設けた。この店は工場に併設されていて、当初は店内飲食ができた。ギョーザ定食を300円という低価格で提供したこともあり、連日大行列ができる人気店となった。

 雪松のギョーザは皮が薄めで、あんは野菜の量が多く、ニンニクのパンチが効いている。肉の量は少な目で、最近流行っている肉汁を売りにするギョーザとは方向が逆だ。サイズは小ぶりで、物足りないと思う人もいるが、サイドメニューとしてはちょうど良いくらいになっているはずだ。方向性としては、日高屋のギョーザにどこか似ていて、「町中華のギョーザ」という感じがする。

ギョーザの作り方

 ギョーザの商品力を確信した同社は、しばらく有人で埼玉県の中西部や東京の多摩地区で店舗を増やしていった。店内飲食ができる店もあった(現在は2店を除いて無人。全店で飲食ができない)。

 ところが、出店のスピードに人材育成が追い付かなくなり、19年7月にオープンした12店目となる大泉学園店(東京都練馬区)から、試験的に冷凍ギョーザの無人販売を実施した。

 この無人販売は、農家で行われている野菜の無人販売をヒントにした。冷凍庫に36個入り1000円の冷凍ギョーザが入っていて、購入したい人はそれを取り出し、必要な人はレジ袋に入れて持ち帰るだけ。ギョーザのタレも、1パック200円で販売している。代金は、賽銭箱のような料金箱に入れる。お釣りは出ないので、ぴったりの金額を投入しなければならない。

店内では購入方法をテレビで説明

 購入の手順については、入店するとモニターに映し出される動画で分かりやすく説明されるので、誰もが理解できるはずだ。

 万引きの心配もあるが、どうなっているのか。料金箱が賽銭箱のような形状をしているため、神仏に背く行為をしてはならないという心理が働くのか、盗難の問題は起きていないという。

 工場も増強している。21年5月に完成した入間市の新工場は、従来の5倍以上の生産量がある。

 店舗物件については、3人のチームで全国を回っていて、開発、工事を実施。シンプルなつくりの店舗なので、出店が決まってから1カ月ほどでオープンしてしまう。立地は視認性を重視している。例えば、生活道路沿いでスーパーの近くというのが、よく見るパターンだ。

立地は視認性が良く、買物に来た人が買いやすいスーパーの近くがベスト

 「間口が大きく取れること、ガラス面が大きく外から店内が見えること、看板が大きく取れることが重要」と、YESマーケティング部長・高野内謙伍氏は強調する。ギョーザの無人販売所は新しい業態なので、入りやすい店づくりが重要との考えだ。

 このように、人件費がかからない無人販売と、工場に設備投資した生産力で「餃子の雪松」は伸びているのだ。全店直営で、閉店した店はない。

ギョーザは冷蔵庫に入っている。開け放しにしても自動で閉まる

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