日産自動車は4月25日、自動緊急回避システムの実車デモ走行映像を報道陣に公開した。前走車の事故や歩行者の飛び出しなどの緊急事態が発生しても、ハンドルとブレーキを自動的に操作して回避を行う。2020年代半ばに市販車に導入し、30年までにほぼすべての新型車に搭載する予定だ。
乗用域の自動運転とは別に、緊急回避の根本的な解決を目指して日産は技術開発を進めてきた。背景にあるのは、緊急回避システムは従来の自動運転の延長線上とは異なるところにあるという認識だ。
「海外で運転支援システムに伴う重大な事故が報告され、議論が盛んになってきている。それを見ていくと、運転支援技術の限界を超えたところで事故が起こっている。緊急回避領域に踏み込まなければ根本的な解決には至らない」と、AD/ADAS先行技術開発部の飯島徹也部長は言う。
現在市販車に搭載されている自動回避システムが対応するのは、事故シーンの3割程度だ。今回発表した技術で「緊急回避の9割くらいをカバーできるのではないか」(常務執行役員の浅見孝雄氏)と、ほぼすべての緊急事態への対応を目指す。
緊急回避システムの中身を分解すると、クルマの周囲の空間を把握し、回避操作を行うという流れになる。このとき、最大のハードルは周囲の空間の把握だ。
クルマが周囲の空間を認識するためのセンサーには、現在大きく3つの種類がある。1つがカメラで、周囲の車両の種類や標識など、その意味(コンテキスト)を理解できるという特徴がある。
2つ目がミリ波レーダーだ。発射した電波の反射を読み取って周囲の物体の距離と速度を把握する。長距離の計測が可能で悪天候にも強いが、クルマ、歩行者、建物などの形状や急な変化を把握するのは苦手だ。
そして3つ目が、日産が今回最重要としたLiDARだ。LiDARは電波ではなく赤外線光を照射し反射を読み取って計測を行う。これにより緊急回避に必要な「空間と物体を3次元で遅れなく把握し、回避操作を連続する」(飯島氏)ことが可能になった。
試作車両のLiDARには、米ルミナーと開発した新型のLiDARを用いた。現在のLiDARは狭い範囲しか把握できないが、これをカメラのような角度まで広げ、さらに従来の倍となる300メートルという検知距離を持たせた。距離を伸ばした分、角度分解能も2倍にしている。
重視したのはスピードだ。カメラは、撮影した映像を元にAIが認識を行うため、スピードに難がある。一方で、LiDARでは瞬時に正確な3D空間が構築される。この空間認識を元に回避行動を取るが、その際もスピードを重視し、「AIではなく幾何学的なアルゴリズムで対応している」(飯島氏)という。
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