クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

軽自動車EVに再挑戦する日産・三菱の勝算 鈴木ケンイチ「自動車市場を読み解く」(1/3 ページ)

» 2022年03月07日 07時00分 公開
[鈴木ケンイチITmedia]

 近々、日産と三菱自動車から、軽自動車のEVが発売される予定です。日産と三菱自動車は、2021年8月に「共同プロジェクトとしてNMKVで企画・開発を進めている新型の軽クラスの電気自動車(EV)を、2022年度初頭に日本国内で発売します」と発表しています。

 この計画が生きていれば、22年度になった早々、4月から6月くらいまでの間に、新型の軽自動車のEVが発売となることでしょう。これは、「30年度までに15車種のEVを含む23車種の電動車を導入する」という日産の電動化ロードマップの一里塚の一つとなるものです。

2019年の東京モーターショーに出品された軽EVのコンセプトカー「ニッサンIMk」

2009年にも軽EVはあったが……

 ただし、軽自動車規格のEVは、なにも今回が世界初というわけではありません。09年には、三菱自動車が軽自動車規格の「i-MiEV(アイミーブ)」を、また、スバルも「プラグイン ステラ」を発売しています。

 アイミーブは、16kWhの電池を搭載して航続距離160キロ(10・15モード燃費)を実現し、438万円(税別)で発売されました。「プラグイン ステラ」は、9kWhの電池を搭載して、航続距離は90キロ(10・15モード)。価格は450万円(税別)でした。どちらも、10・15モードという古い燃費方式だったこともあり、当時の試乗では、6割程度、つまりアイミーブで100キロほど、プラグイン ステラでは50キロほどしか実際には走れなかった記憶があります。

 10年ほど前とはいえ、さすがに「航続距離が短すぎるだろう」と思う方もいるでしょう。しかし、自動車メーカーもバカではありません。その短い航続距離には根拠があったのです。

 それは、実際のクルマのユーザーが1日に走る距離のデータです。国土交通省が実施した09年度の自動車輸送統計調査 旅客輸送の「実働1日1車当たりの走行キロ(自家用車)」を見ると、軽自動車・乗用車で28.34キロ、登録自動車・乗用車で38.62キロしかありません。つまり、調査してみると、クルマの1日の走行距離は50キロにも届かなかったのです。この実情は、今もそれほど変わらないでしょう。

 ソニー損害保険が20年に実施した「全国カーライフ実態調査」によると、年間走行距離の平均は6017キロしかありません。月に均せば、500キロ。週にすれば125キロ。もしも、毎日のようにクルマに乗るのであれば、1回あたりの走行距離は、相当に短くなります。しかも、EVは、自宅で充電するのが前提です。夜に充電して、朝に満充電。つまり、EVは、その日に走るだけの航続距離があれば足ります。

 「論理的に考えれば、EVの走行距離は、それほど長くある必要はない」というのが当時の自動車メーカーの姿勢だったのです。

2018年に改良されたアイミーブ

 しかし、ユーザーは、そのようには考えませんでした。なんといっても、当時は、誰もEVに乗ったことはありません。航続距離500キロ以上を常識とするエンジン車にしか乗っていなかったのですから、「1日走れるだけの航続距離で大丈夫」という主張にピンとこなかったのも当然のことです。ですから、軽自動車のEVは売れませんでした。プラグイン ステラはあっという間にカタログ落ち。アイミーブは、ずいぶんと頑張って、21年まで販売を維持しましたが、成功とは程遠い販売状況でした。

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