クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

軽自動車EVに再挑戦する日産・三菱の勝算 鈴木ケンイチ「自動車市場を読み解く」(2/3 ページ)

» 2022年03月07日 07時00分 公開
[鈴木ケンイチITmedia]

日産と三菱が軽EVに再挑戦

 そんなひどい過去があるのに、日産と三菱自動車は、また、軽自動車のEVに挑戦するというから驚きです。

 では、日産と三菱自動車が投入する新しい軽自動車のEVは、どのようなモデルなのでしょうか。日産の説明によると、

この軽EVは、“軽”の概念を覆すEVならではの力強い加速、滑らかな走り、そして高い静粛性を兼ね備えるモデルです。さらに、運転支援技術をはじめとする、さまざまな先進技術も搭載します。

バッテリーの総電力量が20kWhとなる本モデルは、安心して日常で使用できる航続距離を確保するとともに、EVバッテリーに蓄えた電気を自宅へ給電することで家庭の電力として使用することも可能です。もしもの時には『走る蓄電池』となり、非常用電源として充分な能力を発揮します。

車両寸法は、全長 3395ミリ/全幅 1475ミリ/全高1655ミリと、取り回しも優れ、非常に運転し易いモデルです。なお、お客さまの実質購入価格は約200万円からとなる見込みです

 とあります。

三菱自動車が、2022年1月のオートサロンに出品した「K-EV concept X style」

 ちなみに、日産のEVである最新の「リーフ」の電費は155Wh/km。1キロ走るのに、155Whを使います。この電費を、新型軽自動車EVに当てはめれば、20kWhで約129キロを走れる計算となります。今どきのライバルEVと比べれば、正直、物足りない数字です。つまり、09年に主張した時と同じく「毎日の足であれば、これくらいで大丈夫」というスタンスになります。ただし、価格は、実質購入価格(つまり補助金を使って)200万円からというから、09年からは大幅に安くなっています。「べらぼうに高い」ではなく、「若干高い」になっているのです。

再挑戦が成功する理由

 では、この再挑戦は、うまくいくのでしょうか? これにはポジティブな面とネガティブな面があります。

 まず、ポジティブなポイントを挙げてみましょう。まず一番に大きいのは、世界的な「EVシフト」という潮流があることです。なんとなくEVを求める雰囲気は09年のときもありましたが、今ほど強烈なものではありませんでした。

 米国のベンチャーであるテスラ社が大成功をおさめ、欧米自動車メーカーが熱心に「EVシフト」をうたいます。トヨタもホンダも負けじと、EVへ力を入れていることをアピールしています。そうした世の空気に、消費者は敏感です。「この先、クルマがEVに移り変わるのであれば、早いところEVを買っておこう」という層は必ず存在することでしょう。

 また、初めてEVが日本へ本格導入された09年当時と違い、今は、急速充電のインフラが全国に整っています。急速充電の規格を定めるチャデモ協議会の調査によると、21年5月の時点で日本には7700カ所の急速充電器が存在します。まさに全国津々浦々です。これも、ポジティブなポイントです。一部の欧米ブランドが「日本の充電インフラが足りない」というのは、彼らが用意したEVの多くが大容量の電池を搭載していて、日本にある急速充電インフラでは「出力が足りない」ということ。逆に小さな電池しか搭載しない軽自動車規格のEVであれば、今ある急速充電インフラで十分です。

 また、ランニングコストも、まだEVの方が勝るようです。急速充電にかかる費用は、約4000円の月会費と16.5円/分の利用料金です。30分の急速充電を行うと495円となります。また、自宅でのkWhあたりの電気料金は20〜30円。つまり、20kWhの新型軽自動車の満充電にかかる費用は400〜600円。一方、リッターあたり20キロの燃費性能のエンジン車で、約130キロを走るのに必要なガソリンは6.5リッター。1リッター170円で計算するとかかる費用は1105円。つまり、同じ距離を走るのであれば、今でもEVの方がガソリン・エンジンよりも安くなるわけです。

 そして、アイミーブやリーフといったEVが日本に導入され、すでに10年以上の月日が流れています。この歳月により、EVはそれほど珍しいものではなくなっています。今であればEVを購入しても、「珍しいモノを買う」という抵抗感は09年当時よりも、相当に小さくなっていることでしょう。

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