クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

緊急回避の9割カバー 日産、LiDAR使った自動回避システム全車搭載へ(2/2 ページ)

» 2022年04月25日 14時34分 公開
[斎藤健二ITmedia]
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課題はコストと小型化

 LiDARは高性能だが市販車の搭載は遅れている。その理由はコストだ。性能は高いもののカメラやレーダーに比べて非常に高く、初期の自動運転車に使われたLiDARはそれだけで800万円以上ともいわれた。

デモを行った試作車。天井に付いているのがLiDARだ
LiDARのほか、レーダー7個、カメラ10個を搭載する

 現在は数万円までコストが下がってはいるが、それでも高級車はともかく量販車には高コストな部品だ。「今のコストでは商用化できるレベルではない」(浅見氏)が、自社で幅広く導入し、量産することでコストを下げていく計画だ。

 サイズも小型化する。量産世代に行くことで、高さ50ミリ以下、幅260ミリ、奥行き140ミリへの小型化は目処が付いているという。

新たな課題「トロッコ問題」

 緊急時の自動回避システムが搭載されれば、クルマはさらに安全になる。一方で新たに倫理的なジレンマも、ドライバーとメーカーは突きつけられることになる。

 システムが空間認識を行った結果、このまま進むと事故が起こることが把握された。そこでシステムはハンドル操作やブレーキ操作などで回避行動を取ろうとするが、どちらも間に合わない。システムはどうしたらいいのか? という問題だ。

 さらに極端な例としては、面前に歩行者が飛び出してきた。緊急停止は間に合わないとシステムが判断したような状況を想像してみよう。このとき、ハンドルを左に切って歩道に乗り上げれば回避できるが、歩道には別の歩行者がいる。または、ハンドルを左に切れば回避できるが、そこは崖で乗員に大きな影響が及ぶという状況だ。いわゆる「トロッコ問題」である。

 まず日産では、前提として「人間が注意深くやっていれば避けられる事故を機械の運転で避ける。まずはそれを完成させる」(浅見氏)というスタンスだ。その上で、人間でも回避できないような状況で、システムはどう対応すべきかというのが次なる課題となる。

 具体的には、何らか責任のある対象(飛び出してきたもの)、何ら責任のない対象(周囲の歩行者やクルマ)、自車と乗員のどれを優先してどれを犠牲にするのかという判断を、アルゴリズムに否応なしに盛り込むことになるだろう。

 現時点でのアルゴリズムには次のような原理的なルールが盛り込まれていると、飯島氏は説明する。「後方からのバイクを見るためにLiDAR、周辺はカメラとレーダーでモニターしており、周辺の交通に二次的な衝突をもたらす場合は、その方向への操舵は行わない」

 次のステップで乗員を守るための開発を進めるという。「どうすれば乗員への被害を最小限にする衝突になるか。被害最小化のためのアルゴリズムの開発がこの次のステップ」(飯島氏)

 なお、こうした自動回避システムの作動の結果、起こってしまった事故の責任は「自動運転のレベルに応じた責任の取り方になる」と浅見氏。つまり、レベル1、レベル2、また一部状況のレベル3では、運転者の責任になるということだ。

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