苦境の新電力、“ソシャゲ感覚”で撤退? 1年で14件、倒産過去最多 古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/3 ページ)

» 2022年05月02日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

 企業信用調査最大手の帝国データバンクが4月公表した「『新電力会社』倒産動向調査」によれば、2021年度における新電力の倒産は過去最多となる14件となった。倒産までいかなくとも、電力の小売事業から撤退を余儀なくされた事業者も含めると、その数は31社と過去最悪のペースとなるという。

相次ぐ新電力の倒産。撤退含むとその数は31社に(帝国データバンク、「『新電力会社』倒産動向調査」より)

 21年1月には本連載で、ハチドリ電力で契約した消費者の電気代が20年比で25倍まで膨れ上がった事案を取り上げた。このときはコロナによるサプライチェーンの滞りが原因で発生したLNGガス不足が原因だったが、これにウクライナ情勢がさらなる追い討ちをかけたことが決め手となった。

 ハチドリ電力が大幅な電気代の値上げに踏み切った時点におけるNY天然ガス先物価格は、およそ2ドル代後半から3ドルで推移していた。天然ガス価格は当時の時点で既に前年比1.5〜2倍近い価格となっており、危機的な状況とされていた。

 しかし、今の天然ガス先物価格はそこからさらに2倍以上となる7ドルで推移している。今後も、新電力会社の事業が立ち行かなくなっていく危険性は大きい。

苦境の新電力、“ソシャゲ感覚”で撤退?

 SNSでは、実際に撤退を余儀なくされた新電力会社から届いた「サービス終了のお知らせ」があたかもスマホゲームのような印象を与えるとして話題となっている。

 電力という国民生活に不可欠なインフラ事業を営む会社が、わずかな年数で破綻してしまうことは国民の電力に対する信頼を著しく損ねてしまう。

 しかし、大手電力会社が倒産するどころか経営危機に瀕しているという事情もなさそうだ。なぜ今、「新電力」が倒産や撤退に追い込まれているのだろうか。

 新電力会社のビジネスモデルは、「発電所を持たない電力会社」である。これは「ファブレス戦略」に則った経営であるといえる。ファブレス戦略とは、生産施設(ファブリケーション施設)を持たない(レス)ことで、事業管理に経営資源を集中できるという戦略で、著名な企業ではアップルや任天堂がこれにあたる。

 新電力会社も発電所という電力の生産施設を持たないにもかかわらず電力を小売りしていることから、形式的にはファブレス戦略に則ったようにも見える。しかし、新電力をめぐっては、電力の購入元がJEPX(日本卸電力取引所)にほとんど一極集中している点が、アップルや任天堂などのファブレス戦略とは異なる。電力の調達価格や方法で差別化が難しく、新電力に参入する事業者が増えるほど経営が難しくなる状態にあったのだ。

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