必要なのは“投資”ではなく資産運用 見直されるラップ口座の今金融ディスラプション(2/2 ページ)

» 2022年05月02日 11時58分 公開
[斎藤健二ITmedia]
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ゴールベースアプローチに必要な機能

 長期投資を前提とし、販売手数料ではなく預り資産残高から手数料をもらう事業モデルは古くからある。昨今、若年層を中心に顧客数を伸ばしたロボアドバイザーサービス(ロボアド)も同様だ。ラップと同じく契約形態も投資一任契約になる。

 しかし大原氏は、多くのロボアドが特徴とする「一人一人にカスタマイズされたポートフォリオ」には懐疑的だ。これは突き詰めると、より良いパフォーマンスの提供を目指すもので、“もうかる商品”の提供だからだ。

 「金融理論でいえば、ポートフォリオはリスク水準ごとに1つしかない。カスタマイズすべきは商品ではなくプランだ」と大原氏。

 では、より良いプランを実現するために必要な機能は何なのか。大原氏は、小口、積立/取り崩し、複数契約の3つが重要だと話す。

 従来のラップ口座は、分散投資の実現という技術的な問題や、対面営業員のサポートコストといった事業上の理由から、利用できる最低金額が大きいことがほとんどだった。しかし顧客のさまざまなゴールに対応するには、1000円単位といった小口であることが重要だ。

 投資ではなく資産運用と考えた場合、積立が行えることは重要だ。さらに、取り崩し機能がこれから重要になってくると大原氏は見る。「65歳の人が100歳まで取り崩し続けるにはどうしたらいいか。何年後まで資産を持たせたいか? というゴールだ」

 資産を形成したら、老後は死ぬまでにそれを使っていくステージに入る。その間の運用方法も含め、少なすぎす、多すぎず、取り崩しをサポートする機能が重要だ。ただし、そうしたサービスは現状ほとんどない。

 3つ目が複数契約だ。契約者が1人でも複数のゴールに向けて資産運用することは多い。「子供の学資のためのプランを走らせつつ、自分の老後のプランも走らせられるようにしなくてはならない」(大原氏)

日本資産運用基盤が提供するゴールベースのラップ口座の画面イメージ。提供先によってUIは異なるが、概念は共通している

米国ではリテール4割がゴールベースのラップ口座

 これまでラップ口座は、手数料の高さが問題視されてきた。運用を全面的に任せてもらう投資一任契約を顧客と結ぶわけだが、その手数料が高いことが1つ。さらに、自社やグループ企業が運用するコストの高い投資信託を組み入れる場合が多く、それがさらに高コストに拍車を掛けていた。一方で、担当者は商品を売ることが役割で、顧客の状況変化に応じたプランの調整などはほとんど行われてこなかった。

 ゴールベースアプローチのラップ口座では、定期的に顧客の状況を確認し、変化に応じてプランを変更するなどのアドバイスを付加価値とする。この部分で、1〜2%程度の手数料を正当化する形だ。欧米の研究では、適切なアドバイスは顧客のリターンを数パーセント押し上げることが示されており、双方に取って望ましい結果につながる可能性が高い。

アドバイスによる、顧客リターンの上昇効果(日本資産運用基盤グループ資料より)

 実際に、ゴールベースアプローチの導入によってラップ口座が大流行したのが米国だ。「2000年前後から、ゴールベースアプローチによってプランのサポートをするという概念が、ラップ口座に導入されたことで一気に伸びた。大手対面投資商品販売会社4社のリテール預り資産に占めるラップ比率は40%台まで伸びている」(大原氏)

 果たして米国同様、新たなラップ口座は日本でも受け入れられるか。「現時点では成功例は国内にはない」と大原氏。国内で受け入れられるには、証券業界の変化だけでなく、顧客側が「もうかる商品」を望むことから脱却できるかどうかにかかっているだろう。

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