地銀の再編は“数の減少”にあらず? プライドを捨てて強み生かせるか(1/3 ページ)

» 2020年11月12日 15時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 地方銀行の“再編”が待ったなしだ。急激に人口減少が進む地方部において融資先は減少し、長引く低金利によって安定的な運用益も期待できない。金融庁は2018年の報告書で、経営統合は金融機関の健全性維持のための一つの選択肢だとした。さらに菅義偉首相は、「地方の銀行について、将来的には数が多すぎるのではないか」「再編も一つの選択肢になる」と踏み込んだ発言をしている。

 しかし再編とは何か。「再編イコール、数を減らすというイメージがあるのではないか? そこに違和感、問題意識を感じている」。そう話すのは、日本資産運用基盤グループの大原啓一社長だ。

 地銀同士の合併や経営統合を進めることで、過当競争の回避やスケールメリット、コスト削減などの利点はある。しかし、地銀と地銀が統合しても、できるのはやはり大きな地銀。「大きな地銀ができて、それが本当に解決策になるのか?」と大原氏は問いかける。

 日本資産運用基盤グループが、地銀など地域金融機関に向けて事業戦略のコンサルティングなどを行う中で提案しているのが、証券や信託などとの連携による、それぞれの強みを生かした再編だ。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

地銀の真の強みとは何か?

 地銀の強みは、地域に密着して、長年の取引関係の中で構築してきた地元顧客企業との信頼関係だ。これは、メガバンクや都市部の大手証券会社にはない、地銀ならではの特徴となっている。

 ところが自前主義で進んできた金融業界の例にもれず、地銀もさまざまな金融機能を自身で整備してきた。昨今地銀が力を入れる、地域顧客への投資信託の販売なども、システムを構築してまかなってきた。ここにかかるコストは数億円以上におよび、決して効率的なものではない。

 ここを課題とみて、地銀との提携を積極的に進めているのが野村證券やSBIホールディングス、楽天証券だ。19年8月26日に、山陰合同銀行は野村證券と島根県内の証券関連事業の統合を進めると発表した。野村が顧客口座を一括管理し、山陰合同は販売や顧客対応などを受け持つという役割分担だ。SBIホールディングスも新会社として「地方創生パートナーズ」を設立し、証券システムをSBIが提供、地銀と役割分担していく構想を進めている。

山陰合同銀行と野村證券の提携構図とメリット(日本資産運用基盤グループ資料)

 基本的な考え方は、販売とアフターサポートなどの顧客対応を地銀が担い、証券会社側が投資信託の窓口販売のためのシステムや金融商品の選定、管理などを行うというもの。さらに本質的にリスク性商品の販売に慣れていない地銀の営業員向けに、証券会社が研修なども行う。

 昨今、顧客本位の業務運営が求められる中で、複数の商品から最も優れた商品を提案するという「最良商品方針」が地銀にも求められる。ところが、地銀が取り扱っている投信がどれくらいあるかというと数十程度。こうしたニーズに対応していくためにも、地銀が自前のシステムで進むのは限界に近づいている。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.