資産運用業界では、売買手数料だけでなく運用手数料にも無料化の流れがやってきている(3月4日の記事参照)。業界として各所で利潤が消失していく中、どこで付加価値を付けたらいいのか。
「資産運用アドバイスという、新しいフロンティアに行かなくてはいけない」。そう話すのは、日本資産運用基盤グループの大原啓一社長だ。同社は4月1日に金融情報サービスを手掛けるQUICKとの業務提携を発表。金融事業者が、投資一任契約を用いたサービスを提供することを支援する各種サービスを提供していく。
なぜ資産運用のアドバイスが、新たな付加価値、利潤の源泉になるのか。ポイントの1つが、「ゴールベースアプローチ」という考え方だ。
米投資信託大手のバンガードが提供する”Vanguard Personal Advisor Services”のダッシュボードサンプル。現在の資産状況と投資ポートフォリオで、ゴールに対する成功の可能性が「93%」だと表示されている
これまでの資産運用ビジネスの手法は、「投資商品」の販売だった。いかにユニークな運用戦略で、このくらいの利回りが期待できるという特徴をアピールしていた。こんな商品はいかがですか? というモノを売るビジネスだ。
一方でゴールベースアプローチの考え方は違う。資産運用の目的は、老後資金なのか教育資金なのか。そのためには何年でどのくらいの金額を用意したらいいのか。こうしたゴールを先に決めて、そのための投資を行っていくのがゴールベースアプローチだ。
「相手の状況や将来目指すところをヒアリングし、それに対して、金融としてどんなサポートができるのかを提示する。開始から、10年、20年間継続的にサポートすることに価値がある。サポートというアドバイスの代金を頂く、サブスクリプションのようなものだ」と大原氏は言う。
アドバイザーは、ヒアリングの中で顧客の家庭のゴールを確認していく。このゴール設定がアドバイスの中でも難しく、重要な部分だ。「ゴールベースアプローチというと、お客さんにゴールを言ってもらって、それを達成するための運用方法を提示することが多いが、それはゴールベースの一部でしかない。10〜20年後のゴールを聞かれても普通の人は何がゴールなのか分からない。そういうときにこそ、アドバイザーの本領が発揮される」(大原氏)
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