ロシアに進出している企業はどうなる? 撤退は「吉」か、継続は「凶」か世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)

» 2022年05月06日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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ロシア撤退はむしろ利益に

 とはいえ、ビジネスの側面から見ると、多くの企業は、嵐が過ぎ去るのを待ちたいのが本音ではないだろうか。ロシアでビジネスが回らなくなれば、契約の不履行なども起きるだろうし、現地採用している従業員らの処遇も問題になる。下手をすれば、訴訟問題にもなりかねない。

 ただイエール大学経営大学院の最高経営者リーダーシップ研究所によれば、ロシアから企業が撤退するのはリスクではなく、むしろ利益になるという。

 「最近、ロシアから撤収することで企業がひどい財務負担を強いられることになる、という多数のミスリーディングな記事タイトルを目にする。これはまったくの思い違いである。ロシアから退去した企業は、相当なコストが掛かるが、金銭的な利益も見せているのである」

イエール大学経営大学院(出典:Yale School of Management日本語Webサイト)

 米ワシントンポスト紙によると「フランスの金融大手ソシエテ・ジェネラルは、ロシアから撤退することで34億ドルの評価損を被ったが、逆に、ロシア事業からの撤退発表後に株価は5%増加している」(4月26日付)という。

 事実、最高経営者リーダーシップ研究所の調査でも、撤退を決めた企業のほうが、そうではない企業よりも株主利益が上がっているという。同紙はさらにこう指摘している。「投資家らが、プーチン政権に資金を与えることになるという非常に重要なレピュテーションリスクと、世界中で大規模な企業ボイコットの可能性について、これまで以上に懸念していることは間違いないと言える」

 ジェトロ(日本貿易振興機構)がロシアに所在する日系企業211社を調査(2022年3月24〜28日)したところ(参考)、「ロシアのウクライナへの軍事侵攻を受けた対ロ制裁およびロシア政府の対抗措置の影響」についての問いで、回答した企業97社のうち96社(99%)が「すでに悪影響がある/悪影響が予想される」と回答している。その理由として、ロシアに進出している日本企業は、「対ロビジネス継続による諸外国での評価の低下(レピュテーションリスク)」を挙げている。

 要するに「ロシアに残ることは賢明ではない」ことを多くの会社が認識している。

 ウクライナ侵攻の報道を見ていると、今後も長引きそうな気配である。そうなれば、企業への風当たりがますます強くなっていくのは避けられそうもない。ロシアに進出している外国企業は、難しい選択を強いられることになりそうだ。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル


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