国鉄最後のSLから40年以上、成功している「SL運行」の共通点は「地理的条件」が重要(3/4 ページ)

» 2022年05月11日 08時00分 公開
[小林拓矢ITmedia]

東武鉄道のSL運行における戦略性と優位性

 近年のSL運行での成功例として、東武鉄道の「SL大樹」が挙げられる。現状は2両体制での運行を行っており、実は1両「C11形325号機」は真岡鐡道より購入、もう1両「C11形207号機」はJR北海道より借りている。現在、SLの安定的な運行体制を確保するために、「C11形123号機」の復元を手掛け、22年7月に運行を開始する予定となっている。

真岡鐡道より購入した「C11形325号機」運行開始の際に行われた「蒸気機関車火入れ式」の様子(出典:プレスリリース)

 東武鉄道の「SL大樹」運行は、鉄道文化の維持発展と、日光・鬼怒川地域の観光振興を目的としたものであり、そのために東武鉄道はかなりのお金をかけた。

 下今市駅にはSL関連の資料館や、転車台・車庫の見学施設などを設け、鬼怒川温泉駅にはわざわざ観光客が見えるような場所に転車台を設けた。車両も、14系客車を購入し整備するだけではなく、JR四国から12系客車の展望車化改造をした車両を譲受し、さまざまな楽しみ方をしてもらえるように工夫している。

 だがそのこと自体が優位性をもたらすとは考えにくい。東武鉄道がSL運行に際して最適な場所なのは、立地である。人口の多い東京から適度な距離があり、しかもSLに乗ろうとする人の多くが東武鉄道を利用して日光・鬼怒川エリアにやってくるようになっているからだ。

 東武鉄道は、SL列車に乗車する人から運賃を取れるだけではなく、そこにやってくる人たちからもまた、お金が取れる。しかも、特急列車に乗って来る人が多い。東京からの距離がある程度あり、自社で特急を運行し、そこで集客できるというのが、東武鉄道の強みである。

 しかも東武鉄道の場合、短区間を1日に数往復するスタイルとなっており、日光・鬼怒川エリアの観光と組み合わせることも可能である。スケジュールに合わせて、都合のいい時間に乗りに来ることも可能だ。

 ほかのSL運行では、1日に1往復が限界であり、何度も人を乗せて往復して稼ぐことは困難である。その意味では、「SL大樹」は立地条件を生かした最高のSL運行であるといえるのだ。

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