国鉄最後のSLから40年以上、成功している「SL運行」の共通点は「地理的条件」が重要(4/4 ページ)

» 2022年05月11日 08時00分 公開
[小林拓矢ITmedia]
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新幹線なくしてSLなし

 SLの動態保存は、1976年に大井川鐡道が開始した(当時は大井川鉄道)。しかし、多くの人が復活蒸気機関車に注目を集めるようになったのは、79年に国鉄山口線が「SLやまぐち号」を復活運転したときである。

「SLやまぐち号」(出典:プレスリリース)

 当時も今も活躍しているのは、「貴婦人」と呼ばれる「C57形1号機」。区間は小郡(現在の新山口)〜津和野間。島根県の津和野は城下町としても有名だ。この区間には、関西圏からは新幹線で行くことができる。運行当初は、東京圏からブルートレインで行くことができた。

 「SLやまぐち号」は長きにわたり運行を続け、2017年には35系客車を新造して投入した。最新の技術が盛り込まれた、「旧型客車」である。

 この列車が存続している背景に、2つのことが挙げられる。1つは、大都市圏からのアクセスが便利な場所で運行されていること、もう1つは、同じJR西日本が運行していることだ。

 そういう意味では、JR東日本もよく考えたSL列車の運行を行っている。22年3月のダイヤ改正の時刻表には掲載されていないものの、高崎発のSL列車はよく運行されている。夏休みなどの運行が中心だ。高崎には上越新幹線で簡単に東京からアクセスできる。

 JR東日本が力を入れているのは、新津〜会津若松間で運行している「SLばんえつ物語」である。車両にも工夫をこらし、乗車時間の長さ(3時間以上)からさまざまな楽しみ方ができるようになっている。グリーン車やフリースペースなどもある。

 この列車は、新津10時03分発である。朝に上越新幹線で東京を出れば、新潟乗り換えで十分に間に合う時間となっている。東北新幹線を郡山まで利用し磐越西線経由で、会津若松15時27分発を利用するのもいい。

 「SLばんえつ物語」は7両編成と長編成となっており、人気の高さがうかがえる。その背景にあるのが、東京からのアクセスの良さだろう。もちろんこの列車の運行区間も、JR東日本管内だ。

 鉄道各社は地理的、路線網的な優位性を生かしたSL運行を戦略的に行っている。そうでない大井川鐡道のような場合は、ツアー客などの誘客を積極的に行うなど、別の手法での成功を目指している。

 ビジネスには「立地」が大事であり、SL運行もまたそれを生かすことが、成功には重要なこととなっている。都市部との適度な距離、そして自社でフルパッケージできることが、SLの採算性を高めることにつながっていく。

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