成城石井、上場へ 消費意欲が下がる中、高価格帯スーパーに勝ち目はあるか?小売・流通アナリストの視点(5/5 ページ)

» 2022年05月30日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]
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これから出店を拡大できるか 成城石井の転換期

 ご存じの通り、首都圏、京阪神以外の生活動線の主流はクルマに移行しており、こうした地方エリアにおいては上位政令都市を除き、駅を中心とした市街地は既に交通のハブとしての機能が著しく低下している。地方での消費者の生活動線は幹線道路となっており、買物におけるハブは郊外型大型商業施設となっている。地方エリアでは駅ビルのある駅は極めて限定的であり、あったとしても買物動線からは外れている。成城石井の出店適地である「駅ビル」は地方エリアにはほとんどない。

 これから成城石井がさらに出店を拡大していくためには、首都圏、京阪神の駅前再開発や駅ビル改装を押さえるか、郊外型ショッピングセンターの新規出店、改装などを取り込む、といったタイミングにならざるを得ない。

 いくらでも空地がある郊外ロードサイドに出店して業容を拡大できる一般的なチェーンストアとは事情が異なるということだ。未出店の駅ビル内に進出するにしても、駅ビルには既存のスーパーが営業しており、そう簡単には明け渡してはくれない。郊外型ショッピングセンターに出店しようにも、地方の集客力あるモールの大半は、イオンやイズミなど大手流通グループの運営であり、自社グループを優先するのが普通であろう。

 首都圏という最大のマーケットにおいて、駅ビル立地で1000億円以上にまで成長した成城石井は、出店立地、対象顧客層の再構築という転換期が来ているのかもしれない。ローソンはこうした背景を十分に理解していればこそ、この時期に上場して投資を一部換価しようと考えたのだろう。ローソンにとっては、食品スーパー成城石井の中長期的課題解決に取り組むことより、転換期にある本業コンビニへの投資を最重要課題と考えるのは、ある意味当然かもしれない。

 それはさておき、原材料高騰、円安などによる各種食品の値上げのニュースが毎日のように報じられるご時世になった。さまざまな社会情勢を背景とした物価上昇であり、やむを得ないとはいえど、消費者としては給与所得などの改善が追い付かない状況にあるため、財布のやりくりで凌いていくしかない。

 入りが増えない中、支出が増えるとなれば、優先順位をつけて支出を削らねばやっていけない。日常消耗品の買物に関しても、これからは価格選好の傾向となるのであれば、品質の高い商品をそれなりの価格で提供する品質訴求型のスーパーにとっては、逆風となることも懸念される。

 上場準備を進める成城石井は、これからの成長戦略を示していくことが求められるが、大きく変化しつつある消費環境の下での出店立地の再構築という課題を抱え、難しいかじ取りを迫られることになるだろう。

著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。


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