同社代表の庵原保文氏が新規顧客獲得イベントに登壇する重要な日にも事件は起こった。
とある企業のアプリから同じ内容のメッセージが何通も送られるバグが発生。「セール!」「セール!」「セール!」「セール!」といった具合だ。アプリの不具合を知らせる連絡で鳴りやまない携帯、クライアントへの謝罪、冷や汗をかきながら庵原氏はイベントをやり抜いた。
このバグは1社だけだったものの、当時はシステム不具合が頻発していたことから「他のアプリでも起こるのではないか」と作動状況を確認する業務に追われることとなった。
バグの頻発は事実ではあるものの、当時も解約率は2.0%ほどをキープしていた。競合不在という状況も大きいが、実際に多くの導入企業がアプリからの店舗送客やEC購買という成果を実感していたのだ。
また、同社の圧倒的な「攻めの姿勢」も支持されていたと考えられる。クライアントからの「こういう機能がほしい」という相談には全力で応えていった。そのスピード感が原因でバグも多かったのは言うまでもないが、「炎上」の学びを生かし、18年に現在のCTOが入社したタイミングで守りの体制作りに動き始めた。
守りを固め始めた同社、21年度のサービス解約率は0.68%と、社内の基準値である1.0%を大幅に下回る結果に。堅実な成長を続けるサービスの要は「カスタマーサクセス」の考えを全社に浸透させたことだという。
【訂正:2022年6月1日午後6時39分 初出で「基準値である0.9%を大幅に下回る」と記載しておりましたが、取材時の回答内容に誤りがあったため「基準値である1.0%を大幅に下回る」に訂正いたします。】
「カスタマーサクセスは、当社が掲げる行動指針の1つ。採用時にカスタマーサクセスを体現できそうな人を採用しています。ほかにも年に1回、カスタマーサクセスデイを設定。部署横断で、自分たちが提供できるカスタマーサクセスは何かを考えています」(カスタマーサクセス部 部長 田渕光氏)
SaaSビジネスにおいて、初めてカスタマーサクセスチームがクライアントと対面するのは、サービス導入後のオンボーディングが一般的だろう。同社もそのタイミングに変わりはないものの、全社カスタマーサクセスを掲げるだけあって、サービスの提案段階からその要素が色濃く映し出されている。
「実際にアプリを導入するまでに平均2〜3カ月かかることが多いです。クライアントの課題の把握や、ヤプリ導入で実現したいことなど意識のすり合わせを行います」(田渕氏)
【訂正:2022年6月1日午後6時39分 初出で「平均3〜4カ月かかる」と記載しておりましたが、取材時の回答に誤りがあったため「平均2〜3カ月かかる」に訂正いたします。】
そのほかにも、将来的に解約につながりそうな企業には提案しない、本アプリを作る前にサンプルアプリを制作し導入のイメージを醸成するなど、カスタマーサクセスを念頭に置いた取り組みは多岐にわたる。クライアントとの課題感の共有や目線のすり合わせ、正しく期待値を握ることが解約率低下に大きく影響しているといえるだろう。
アプリがローンチしたらカスタマーサクセスチームの出番だ。特に力を入れているオンボーディングでは、「プッシュ通知の打ち方」「アプリ内のバナー画像の差し替え方法」など3カ月ごとの習得目標を掲げ、1年間かけて全機能をクライアント自身が問題なく使いこなせる状態まで並走する。その後はクライアントのアプリ運用の指標に沿って、成果を出し続けられるような施策の提案やサポートに回る。
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