変革の財務経理

「電子取引データの電子保存」 23年12月までの期間に気を付けるべきこと義務化は待ったなし(3/5 ページ)

» 2022年06月02日 12時00分 公開
[研修出版]

23年12月までの保存ではここに気を付ける

 22年1月からは電子取引に関するものがあれば、電子データとしての保存が必要ですが、当面の経過措置として、23年12月まではこれまで通りの書面出力による保存も可能とされています。

 国税庁が21年11月に公表した説明資料によると、電子データの保存が義務付けられることで、「もしその保存ができていなかった部分がある場合は、経費としても認められないのではないか」といった懸念や「青色申告の取消しにつながるのではないか」といった懸念もあったようです。

 この点はあくまで保存状況を総合的に勘案して判断するものとされており、電子データの保存が一部できていないことだけをもって、即座に厳しい対応が行われる可能性は否定されています。

 そうはいっても、法令上において電子取引に関する電子データの保存が必要とされたことは事実ですし、書面出力による保存が現在可能とされているのもあくまで経過措置です。経過措置の期間が過ぎた後も、電子データの保存についての取り組みをしていなければ、税務調査があった場合の印象は悪くなる恐れがあります。経過措置は一定期間のものであって、電子データの保存が必要であるという法令の改正はすでに実施されているからです。

 ちなみに、この経過措置は「猶予」ではなく「宥恕(ゆうじょ)」とされています。宥恕とは「やむを得ない場合には許される」という意味ですから、税務調査があった場合でも、現時点で対応できていない事情と今後の見通しを口頭で説明すればよく、事前の申請などは不要です。

 つまり23年12月までの経過措置は「やらなくていい期間」ではなく、「準備するための期間」と考えるべきで、24年1月までに保存要件がきちんと満たされているように取り組むことが必要だということです。事業年度の開始日から保存状態をそろえる場合は、さらにその準備期間は短くなることにも留意すべきでしょう。

23年12月までにこんな準備をしておこう

 慌てて対応する必要はないとしても、いずれその経過措置は終了します。では、どのような準備を進めればよいのでしょうか。

 まず必要なのは、自社の経理においてどのようなものが電子取引に該当しているのかを洗い出して把握することです。ここでご覧いただきたいのは、国税庁Webサイトでご覧になれる『電子帳簿保存法一問一答』というQ&Aです。

 一問一答はいくつかありますが、このうち令和4年以降の〔電子取引関係〕について、内容を一読されることをお勧めします。一問一答の問4では、電子取引の対象範囲について具体例が示されています。具体例をもとに、どのようなファイルが保存対象になるのかを図表で整理しました(図表1)。

photo 図表1 電子取引の対象範囲の具体例

 取引先から電子メールに添付されてきたPDFファイルなどの電子データがあれば、これを保存しておきます。受け取った場合だけでなく、自社が送付した電子メールについても同様の扱いです。また、電子メールそのものに取引情報の記載があれば、これをPDFファイルなどに出力して保存することも可能とされています。

 なお、図表1にあるCSVファイルとは、文字や数字が規則通りに並んでいるデータのことで、Excelなどで内容を見ることができます。

 インターネットの通販サイトで購入した場合は、PDFファイルをダウンロードするか、画面をキャプチャーした画像で取引情報を保存します。

 注意すべき点は、経理部門だけでなく会社の内部に及ぶ場合です。例えば、従業員の経費精算をしているのであれば、これまではExcelの経費精算書を印刷して、これに領収書などを添付して提出を受けていたことが多いでしょう。この場合、従業員が経費精算を希望するもとの領収書が電子データだった場合は、その電子データが原本です。しかし、電子データをそのまま紙の経費精算書に添付することはできません。

 国税庁の一問一答問8では、従業員自身がその電子データを保存し、会社が保存状態を管理しているならば、その方法を認めるとしています。しかし、税法が定める期間も従業員がきちんと保存できるかは分かりません。会社としても、なんらかの方法で電子データを収集して保存することが望ましいといえます。

 このように電子取引の保存については、紙ベースの処理が行われていると相性が悪い面が現れてきます。しかし留意しておきたいのは、電子データの保存が必要だとしても新しいシステムの導入までもが必須というわけではない、ということです。

 電子データの保存自体は、要件が満たされていれば、会社のPC内部や外部記憶媒体で保存しても問題はありません。これに比べて、外部のシステムを利用した場合は、一度利用を開始すると他のシステムへの移行は難しくなります。

 現在の自社が置かれている経理の状況を把握し、これに適した対応を考えるしかありません。それぞれの会社で状況は異なるため、全てに同一の処方箋というものはありません。経理担当の皆さん自身でしっかりと考えていく必要があります。

 なお、税法が求めている保存だけに意識がとらわれがちですが、電子データは紙の書類と同じように会社内部の記録でもあります。会社の記録としての電子データをどのように残していくかは、会社全体のテーマともいえます。自社における規定なども再確認や整備が必要かもしれませんし、社内への周知や知識共有も必要になるでしょう。

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